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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Prequel<B>,『セピアの過去』
333/476

333,

<><><>


 ――ヨツハとギルバートが帰ってきたのは、結局それから三十分ほど経った後だった。


「あら、おかえりなさい」


「……」


「あー、えっと。お騒がせしました、マジで……ただいま」


 あれだけバラバラに破壊されていたわりに、ギルバートはいつもと変わらない様子で微笑んでいた。

 しかし、目が泳いでいる。横を見るとうつむきっぱなしで表情が読めないヨツハ。


 ――あーもう、どっちなのよ


 当たって砕けたのか砕けなかったのかがまるでわからない。ヤキモキするアザレアを置いて、ヨツハはすたすたと奥の部屋にこもってしまった。


「まあ、元気になってよかったじゃないですの。突っ立っていないで、座ったらどう?」


「え? あ、うん」


 挙動不審なギルバートに、アザレアは冷静さを装って目の前の椅子を示す。慌てて腰を下ろすギルバートの向かい側に座って、頬杖をついてじっと見つめてみることにした。


「「……」」


「で?」


「……『で?』とは」


 片眉を上げるアザレアに、ギルバートは目に見えてビクつく。呆れたようにため息をつく彼女に、ギルバートは顔を両手で覆った。


「えっと……ヨツハをけしかけ――あの子の背中を押したのは、君ってことでいいんだね? アザレア」


「他に誰がいると言うんですの」


「ですよね、はい」


 へにゃりとテーブルに突っ伏すギルバート。その明るい茶髪を眺めてアザレアは鼻を鳴らした。


「詮索なんて野暮なことはしたくないんですけれどね。でも、ヨツハに発破をかけたのはワタクシですから――貴方がどう返事をしたのかくらいは聞かせてもらいますわよ?」


「……」


「ギルバート」


「――わかんねーよ。好きって言われたって」


 低く呟かれたその言葉は、ある意味アザレアの予想通りだった。


「まあ、でしょうね。知っていましたわ」


「ヨツハ、めちゃくちゃ焦ってるみたいだった。まあ、ほとんど俺のせいだってことは理解しているんだけど……アザレアもなんか言ったんだろ」


 上目遣いに睨みつけてくるギルバートに、アザレアはやれやれとため息をつく。ヨツハに語ったことをそのまま話してやれば、彼は再びテーブルにへたり込んだ。


「信じられないくらい含蓄のあるお言葉……」


「少なくとも、貴方やヨツハよりは長く生きていますわ」


「……」


 ギルバートはぐしゃりと髪をかきあげる。ぐちゃぐちゃと“感情”が渦巻くその瞳を眺めて、アザレアはただ黙っておくことを決めた。


「――優しいとこが好きだって、言われた」


 たっぷり五分は待っただろう。ぼんやりと目を閉じていたアザレアの耳に、低い声が触れる。目を開けると依然として困惑した表情を浮かべたギルバートがへたり込んでいた。


「明るくて楽しくて、でも言うことに間違いが無いところが憧れだったって」


「そう。素敵じゃない」


「声が好きだって言われた。顔もどタイプだってさ……」


「よかったじゃないですの。イケメンに造ってくれた制作者(マスター)に感謝しておくといいですわ」


「本当に……機械()なんかでいいのかよ」


 握りしめた茶色い髪の束はクシャクシャになっている。切羽詰まった表情。アザレアはため息を飲み込んで――ただ微笑んでみせることにした。


「でも、貴方はヨツハに『YES』と言った。そうでしょう?」


「……!?」


 ギルバートはヨツハに言われたことをはっきりと開示してみせた。――仮に言われたことが嫌だったとしたら、彼は改めて口に出して言ってみようとはしなかっただろう。


「どうして、恋をする連中はどいつもこいつも面倒くさいのかしら? 好きなら好き、はいおしまい!」


「……強すぎる」


 思わず苦笑するギルバートに、アザレアはまた鼻を鳴らす。


「関係性は複雑でも、想いはシンプルですわ。嘘をついたって誤魔化したって、どうせいつかは露見する想いなら、いっそさらけ出して悔いのないのようにしてしまうのが模範解答だと思いますの。その点、貴方とヨツハの選択は正しかったと言えるでしょうね」


「……俺も、焦ってるんだ。俺もヨツハも、いつ壊れてなくなるかわからない――そう思ったら、なんか勝手にうなずいてた」


「それで正解を引き当てたなら、もう十分ですわ」


 柔らかく微笑むアザレアをちらりと見て、ギルバートは息を吐き出す。――その表情は、ほんの僅かに綻んでいた。


「さてと……ギルとちゃんと話もできたし、ヨツハも引っ張り出して質問攻めにでもするとしましょう」


「え?」


「お互いの好きなところ、百個ずつ出すまで終わらせませんからね?」


「は? 待ってやめてほんとに……っ」


 賑やかしさが戻ってきた。蝉の声が沁み通るようだった。

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