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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
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33,

「――それで、どのようなご用件ですか?」


 相変わらずごちゃごちゃと片付かない工房で、サスナと天音は猫脚のローテーブルを挟んで腰を下ろす。


「大元帥様から――手紙ではお伝えできない内容の言伝が」


 静かなサスナの答えに、天音は彼を一瞥した後に、テーブルの天板を指の先でコツコツと叩く。


「外に人が近づかないよう見張りなさい」


 天音がそう呟くと、扉の外に吊るされたベルが返事をするように『リン!』と鳴った。


「――今のは?」


「人が来たらベルが鳴るように命じました。立ち聞き防止です」


 天音の答えに、サスナは納得したようにうなずく。


「それで?」


「――この春の旅商隊キャラバンの話です。どうやら、厄介なモノが紛れ込みそうだという情報があって」


「厄介な、モノ」


 サスナの言葉を、天音はただ繰り返す。サスナはうなずいた。


「ええ。あくまで都市間のコミュニティーからのもので、巷にもまだ広まっていない情報なのですが――どうやら“首都”に来るキャラバンの中に、アーティファクトが紛れ込んでいるようだ、と」


「え?」


 サスナはちらりと、テーブルの上に置かれたあの封筒を見る。


「大体の察しはついています。金属製品や機械製品を扱うキャラバンの中に、いくつか怪しいものがあって」


「このビラの商隊が、その候補だと――?」


「恐らくは」


 天音は再び封筒を手にとって、中身に目を通す。

 古い印刷技術が廃れてから、もう何十年も経っている。手書きのビラには、商隊の名前と扱っている商品の簡単な線画、その商品の説明などが載っている。


「修繕師殿の目から見て、何かそれらしいものはありますか……?」


 ――機械部品、簡素な機械類、金属製品全般……


「これだけではなんとも……。扱っているものに、何かおかしなものは見受けられませんから」


「そうですか」


 サスナは少々がっかりしたように呟く。天音は顔を上げた。


「どうせ的場様のことです。……ビラを渡したということは、現地に探しに行けということでしょう?」


 天音はふうっとため息をつく。サスナは少し驚いたように眉を上げた。


「それは――まあ。確かに閣下は、最終的にはそう頼むようにと。――しかし、探すなんてできるものなのですか?」


「さあ……。でも、露店の店先にアーティファクトが立ってる、なんて状況に出くわしたなら――多分、わかると思います」


 天音はサスナを正面から見つめる。大きな蒼い瞳が、薄い機械ランプの光を反射した。


「第二次機械戦争以後の製造のアーティファクトならわかりやすいですが……恐らく、“旧型”の人間に近いタイプのものでも、大体は識別できると思います」


「本当ですか――?」


 サスナは目を瞬かせる。天音は、またため息をついた。


「相変わらず、人使いの荒いお方ですね。あなたの上司は」


「――優秀な為政者である。というのが正しいです。……人使いの荒さも含めて」


 サスナは心外である、と言わんばかりに言い捨てる。そんな彼に、天音は苦笑した。


「あなたもまた……その()()()は相変わらずなんですね。分かりました、お引き受けします」


 ただし。と天音は付け加える。


「これは時間外労働なので――タダ働きというのも癪ですから、商隊での買い物代は、どんなものであれ経費で落としていただきますよ」


「ふふ……。閣下はもともと、そのつもりですよ」


 天音の出した条件に、サスナはおかしそうに小さく笑う。彼のそんな様子に、天音はどこか不服そうに眉を顰めてみせた。

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