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「――それで、どのようなご用件ですか?」
相変わらずごちゃごちゃと片付かない工房で、サスナと天音は猫脚のローテーブルを挟んで腰を下ろす。
「大元帥様から――手紙ではお伝えできない内容の言伝が」
静かなサスナの答えに、天音は彼を一瞥した後に、テーブルの天板を指の先でコツコツと叩く。
「外に人が近づかないよう見張りなさい」
天音がそう呟くと、扉の外に吊るされたベルが返事をするように『リン!』と鳴った。
「――今のは?」
「人が来たらベルが鳴るように命じました。立ち聞き防止です」
天音の答えに、サスナは納得したようにうなずく。
「それで?」
「――この春の旅商隊の話です。どうやら、厄介なモノが紛れ込みそうだという情報があって」
「厄介な、モノ」
サスナの言葉を、天音はただ繰り返す。サスナはうなずいた。
「ええ。あくまで都市間のコミュニティーからのもので、巷にもまだ広まっていない情報なのですが――どうやら“首都”に来るキャラバンの中に、アーティファクトが紛れ込んでいるようだ、と」
「え?」
サスナはちらりと、テーブルの上に置かれたあの封筒を見る。
「大体の察しはついています。金属製品や機械製品を扱うキャラバンの中に、いくつか怪しいものがあって」
「このビラの商隊が、その候補だと――?」
「恐らくは」
天音は再び封筒を手にとって、中身に目を通す。
古い印刷技術が廃れてから、もう何十年も経っている。手書きのビラには、商隊の名前と扱っている商品の簡単な線画、その商品の説明などが載っている。
「修繕師殿の目から見て、何かそれらしいものはありますか……?」
――機械部品、簡素な機械類、金属製品全般……
「これだけではなんとも……。扱っているものに、何かおかしなものは見受けられませんから」
「そうですか」
サスナは少々がっかりしたように呟く。天音は顔を上げた。
「どうせ的場様のことです。……ビラを渡したということは、現地に探しに行けということでしょう?」
天音はふうっとため息をつく。サスナは少し驚いたように眉を上げた。
「それは――まあ。確かに閣下は、最終的にはそう頼むようにと。――しかし、探すなんてできるものなのですか?」
「さあ……。でも、露店の店先にアーティファクトが立ってる、なんて状況に出くわしたなら――多分、わかると思います」
天音はサスナを正面から見つめる。大きな蒼い瞳が、薄い機械ランプの光を反射した。
「第二次機械戦争以後の製造のアーティファクトならわかりやすいですが……恐らく、“旧型”の人間に近いタイプのものでも、大体は識別できると思います」
「本当ですか――?」
サスナは目を瞬かせる。天音は、またため息をついた。
「相変わらず、人使いの荒いお方ですね。あなたの上司は」
「――優秀な為政者である。というのが正しいです。……人使いの荒さも含めて」
サスナは心外である、と言わんばかりに言い捨てる。そんな彼に、天音は苦笑した。
「あなたもまた……その信仰心は相変わらずなんですね。分かりました、お引き受けします」
ただし。と天音は付け加える。
「これは時間外労働なので――タダ働きというのも癪ですから、商隊での買い物代は、どんなものであれ経費で落としていただきますよ」
「ふふ……。閣下はもともと、そのつもりですよ」
天音の出した条件に、サスナはおかしそうに小さく笑う。彼のそんな様子に、天音はどこか不服そうに眉を顰めてみせた。