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2003/2/28 <log>
「あ、おつかれ〜アキラ」
「おつかれ。こっち座っていい?」
「おうよ。連邦の詰め所には慣れたか?」
「未だに部屋からここまで直線で来れない。なにココ、迷路かなんかなの?」
「はははっ、それな。オレ、今朝三時間迷って来た」
「嘘だろ……」
「はは、サイコー」
「それで? B地区はどうなってる?」
「これから巡視だ。――ああ、ちょうどいいな。お前行ってくれないか、アキラ」
「え? ああ、了解っす。もう一人必要だな……おい」
「あ、オレはパス。別件がある」
「こっちもダメ」
「すみませ〜ん、別の仕事ありま〜す」
「……役立たず共め」
「外に出れば、暇なやつはわんさと転がってるからな。適当に連れてけ」
「了解。じゃあまあ、行ってくる」
「死ぬなよ〜」
「巡視程度じゃ死なないって」
「気をつけるに越したことは無いだろ?」
「へいへい――ご忠告どうも」
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「ちわー。ここ、アスピトロ派遣隊の三班の詰め所で合ってます?」
「お、二班の若造じゃねーか。なんつったかな……」
「アキラっす」
「おお、そうだ。やたら目立つ髪したガキだなぁと思ってたとこなんだ」
「ガキって……」
「新型機はみんなガキ――つーか、赤ん坊みたいなもんだろう。そいで? なんの用だ」
「今、イツキっています?」
「あ? 誰だそれ」
「……あいつ、おんなじ班の人にも名乗ってないのか。『死神』っすよ、“精霊の加護”持ちの」
「ん? ああ! あいつのことか。あんなんにも、一応名前があったんだなぁ……あいつなら建物の裏手にいるぞ。あんまり詰め所の中には入ってこねーんだ」
「え? 外にいるんですか」
「なんせあの能力だろう? 不甲斐ないことに野郎どもが怖がっちまってよ。そしたらあいつ『俺は外にいるから気にするな』なんてぬかしやがった。なんだかなぁ」
「……」
「あいつに用事のあるやつなんて珍しいなぁ。なぁ、小僧」
「まあ……ちょっといろいろあって。ありがとうございます、おっさん」
「だーれが『おっさん』だ。あんまし生意気な口きいてると、そのニンジン頭丸刈りにしてやるからな」
「あ、マジですんませんでした」
――さて? どーこにいるんだ……
「古の能力が欲しくなるな」
「……」
「……」
「あ、」
――見つけた
「おーい! イツキ」
「……」
「おお、暇そうだな。暇だろう? 暇だよな?」
「なんでお前がここにいる」
「詰め所にいたおっさ……でっかいアーティファクトがお前がここにいるって言ってたから」
「――なんの用だ」
「B地区の巡視につきあってくんない? 人手が足りないんだ」
「俺じゃなくてもいいだろう。なんでわざわざ……」
「はいはい、文句言わないの〜。ほら、行くぞ」
「……」
「あ、もしかして他に仕事があった?」
「いや。ただ、お前がわざわざ俺のところに来た意図がよくわからない」
「?」
「何が目的だ? どうして“精霊の加護”のリスクがあるのに俺に構う」
「目的……は特に無い。意図って言われても――真っ先に思い浮かんだのがイツキだったってことしか無いけど? マジで」
「……馬鹿、なんだな。お前は」
「いや、ひどいな。……てか、さっきから加護のリスクが云々とか言ってるけどさぁ。そもそも俺から話しかけてるんだから、万が一イツキの加護で俺が死んでもそれは俺の責任だし、そうならないように気をつけるのも俺なんだから――イツキは、別に気にしなくていいんだって」
「……」
「第一、イツキも過敏すぎるけど周りの奴らも怖がり過ぎなんだよ。ちょっと距離を取るとか、そのくらい自分たちで気をつけろって話なんだよな――イツキは悪くないんだからさ」
「……」
「つか時間ヤバいな。さっさと行って報告しないと班長に怒られる……ほら、行くぞイツキ」
「……具体的に、B地区のどこだ」
「西側。ほら、国境沿いの」
「わかった」
「おお、乗り気!? じゃあ行こうぜ」
「……乗り気ではない、仕事だからだ」
「もーなんでもいいって。さっさと行って、飯でも食いに行こう!」
「……好きにしろ」
<備考>
出発したのが遅かったからどうなるかとヒヤヒヤしたが――イツキがいたおかげで定時点呼に間に合った。
イツキは気がついたらいなくなっていた、気まぐれなやつだ。今度こそ飯に誘おうと心に決めた。




