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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Prequel<B>,『セピアの過去』
321/476

321,

 2003/2/13 <log>


 《《シレリア連邦》西境界線・第一部隊派遣任務》


「ったく、連邦境界の警備をなんでオレたちが……オレたちはアスピトロのアーティファクトだぜ?」

「つべこべ言うなって」

「でもよぉアキラ」

「はいはい。文句言ってる間に手を動かせって先輩(・・)

「……へーい」

「アキラ、交代するぞ」

「お、了解」

「はあ!? おい、オレとも代われ〜!」

「お前はさっき代わったばっかだろうが。アキラは朝から働き通しなんだよ」

「ははっ。じゃ、お先に失礼しま〜す」


 ――《シレリア連邦》総督府からの要請でアスピトロ第一部隊は真冬の連邦に駐屯している

 ――見渡す限りの雪原

 《気温−15℃》

 《湿度55%》

「さみ〜」

 ――つっても数字でしか感じられないけどな


「……あ」

 ――あいつ

「おーい! ここでなにしてんだ?」

「……」

「待て、無視すんな!」

「……」

「この前はマジでありがとう! いや〜、ずっとお礼したくってさ」

「いらない」

「まあそう言わずに。ほんとに感謝してんだよ」

「近づくな」

「あ、“精霊の加護(プロテクション)”気にしてる感じ? 知ってるから大丈夫。なんというか……災難だな、あんたも」

「……」

「ん? なんでそんな顔するんだよ」

「――気でも触れたのか? わかってるのなら、なおさら近づくな」

「なんで?」

「なんでって……」

「触んなければ危なくないんだろ? 話すぐらいいいじゃん」

「……」

「なあ、あんた名前はなんていうんだ? 他のやつらに聞いても、誰も知らないって言ってさ〜」

「知ってどうする」

「え? 別に」

「……」

「ええ〜? いいじゃんか名前くらい。そんな渋らないでさ〜教えてよ」

「――うざいな、お前」

「あはは、ひっど」

「……」

「てかさ、あんた強いんだな。また暇なときにでいいから模擬戦(シュミレート)してくれよ。俺、まだ配属されたてで実戦経験があんまりないから」

「どこまでも死にたいんだな、お前は」

「いや、そうじゃないけど。取っ組み合いするつもりじゃないから大丈夫だって」

「……」

「それで、名前はなんていうんだ?」

「いいだろうなんでも」

「よくねーよ、大問題だろ。あんた、そうやって名乗らないから『死神』なんて呼ばれるんだよ」

「別に、呼び名なんてどうでもいい」

「まあ、あんたはそれでいいかもしれないけど――『死神』だと俺が呼びづらいからさ。だから名前教えて」

「……なら、もう呼ばなくていいように近づかないでくれ」

「そうじゃねーんだよ。あー、なんか理屈が必要か。えっと――俺は、強いやつと仲良くしたいわけ」

「……」

「死にたくないからさ。あんたについていけば、戦場でも死ななくて良さそうだろ? 楽もできそうだし」

「思ったよりも打算的なんだな」

「機械なんてそんなもんだろ。というわけだから名前教えて」

「……」

「――あーもう! めんどくさいやつだな」

「お前に言われたくない」

「俺はめんどくさくないし――訂正、ちょっとめんどくさいかも」

「『ちょっと』……」

「あーもう、はいはい『死神』って呼べばいいんだろ? ったく、そんなに渋らなくていいのに名前ごときで」

「……」

「……」

「何故――そこまで名前にこだわる」

「だから呼びにくいじゃんか。それに、『死神』ってなんか……変だし」

「?」

「触るだけで人が死ぬって、それって別にあんたの意思があってそうなってるわけじゃないんだろ? それなのにそんな呼び方、まるであんたが人殺しみたいじゃないか」

「……」

「それに、あんたが人殺しなら俺もそうだし。俺があんたを『死神』なんて呼ぶ資格はないよ」

「……」

「……ええい、なんか言えよ! ちょっと恥ずいだろーが」

「お前は、おかしなやつだな」

「は? てめ……失礼すぎない?」

「詰め所に帰る」

「ん? はぁ? おい待て! まだ話は終わって……、」


「イツキ」


「……え?」

「――俺の名前だ。これで話は終わりだな」

「……」

「は?」

 ――あいつ……マジで帰っていくんだが

「おかしいのは……どっちなんだよ」


<備考>

 あの無愛想で面倒くさいエセ『死神』の名前は“イツキ”というらしい。

 変人だけど――案外悪いやつじゃないかもしれない

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