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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
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32,

「――ん?」


「どうかしたんですか……」


 不意に、アキラが腕をおろして後ろを振り返る。微笑みが消えたその表情に、天音は訝しげな顔をする。


「誰だ――?聞き慣れない足音だけど」


 アキラは緊張した面持ちで目を細めて、修練場とは反対側の広間の暗がりを睨む。

 ――と、広間の柱の陰から、何者かが現れた。



「……これは失礼。不審な者ではありませんよ」



 出てきた男の顔に、天音は見覚えがあった。


「サスナさん……」


「お久しぶりです。修繕師殿」


 その金髪の男――サスナは穏やかに微笑んだ。その後ろから、サスナのそれと色違いの軍服を着た青年がニ,三人現れる。……ポリティクス・ツリーで働く、公務員の制服だ。


 アキラは彼の格好を見て、ハッと目を見開く。


「その制服……元老院セナトスの――」


「流石は“兵器”、耳が良いんですね。――足音には気をつけているつもりだったのですが」


 サスナは肩をすくめる。そんな彼を見て、天音は彼の方に一歩踏み出した。


「何か御用ですか?」


「察しが良くて助かります、修繕師殿」


 ニコリと微笑むと、サスナは後ろに控えている男のひとりを振り返る。その男は天音の前に歩み寄ると、何かを天音に差し出した。サスナは微笑んだまま言う。


「今年も、旅商隊キャラバンが来る季節になりましたよ」


 その男が差し出しているのは、分厚い封筒だった。封蝋には首都大元帥の紋章が型押しされている。

 天音はその封筒を受け取り、乱雑に封を破った。


「――わざわざこれを?」


 中に大量に入っていたのは、キャラバンが提出を義務付けられている、商品の宣伝ビラだ。



 ――旅商隊キャラバン


 “災厄”以後、各地に点々と存在する都市や街を旅して、商業をする行商人の集団を、“首都”の人間は皆そう呼んでいる。

 この“首都”には、雪が全て解けてなくなる四月頃になると、多くのキャラバンがやってきては商いをしていく。異国の品々や“首都”では生産できない日用品など、生活に必要な物資の供給源となるキャラバンは、政府をあげて管理をするほどに重要で貴重なものだった。


「大元帥閣下が、今年は金属部品を扱う商隊がいくつか来るから、修繕師殿にもお伝えしろと――どうです?少しは興味がお有りで?」


「――興味はありますけど……何もわざわざ、直接持ってこなくても」


 ペラペラとチラシの束をめくりながら、天音は呆れたようにサスナを伺う。


「そのためにいつも、定期的にルクスを飛ばして……あ、」


「そうなんですよ。今日は“彼”が来ませんでしたから」


 サスナはニヤリと微笑む。天音は、ついさっきまでルクスをリペアしていたことを、今更ながら思い出す。


「ぅ……。確かに、それは申し訳ないんですけど――だからって、サスナさんが来る必要はありませんよね」


 バツが悪そうにサスナから目を逸らしながら天音がそう言うと、サスナはほんの僅かに表情をこわばらせる。


「確かに、そうですね――()()()()()()()()()


「……まだ他に何か?」


 含みのあるサスナの物言いに、天音は首を傾げた。サスナは天音の問には答えず、代わりに天音の後ろに立っているアキラをちらりと見る。


「人払いを、お願いできますか?」


「……」


 天音は黙ったまま、訝しげに目を細め、彼と同じようにちらりと後ろの人物を見やる。アキラは軽く肩をすくめて見せた。サスナの表情は微塵も変わらない。


「――分かりました。工房に行きましょう」


 少しの沈黙の後、頑ななサスナの様子に、天音はそう言ってサスナの横を通り過ぎると、ベースの奥に向かって歩いていく。サスナは彼女の後に続く。サスナについてきていた男たちは、気がつくと姿を消していた。


「……人払い、ね〜」


 ただひとり、その場に残されたアキラが、佇んだまま静かに呟いた。

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