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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Prequel<B>,『セピアの過去』
317/476

317,

 2002/3/22 <log>


「おや、アキラ?」

「っ……」

「珍しいじゃないか、書庫にいるなんて。なにか探しものかい?」

「いや――その、」

「?」

「……す、すみません」

「え、アキラ? ちょっと待ちなさい」

「……」

「別に、君が書庫にいるからって怒らないよ。なにをそんなに慌てて――悪戯でもしたのかい?」

「そんなことはしませんっ」

「じゃあ、コソコソする必要もないだろう」

「……」

「ん? 本を持っているね。なんだ、本を読みたかったのかい?」

「いや、これは……」

「――『春州物語集』?」

「!?」

「いや、私目だけはいいからね。ふふ。そんな、隠さなくてもいいだろう」

「……」

「ここにはそういうフィクションはあんまり置いていないんだけど、それは私のお気に入りでね。ついシリーズで買ってしまったんだよ。読みたかったのかい?」

「――て」

「ん?」

「新聞の……広告に出てるのを見て、気になって……」

「ほう、君はそういうのが気になるのか。それは作者が《帝州》の有名な作家でね。まあ広告に出ていたと思うが、“勇者”って呼ばれる勇敢な青年が異世界を旅するっていう、よくある冒険譚なんだよ。私はそういうのはあんまり好まないんだが――それは面白くてね。興味があるなら読むといい」

「すみません、勝手に持ち出そうとして……」

「ここにある本は私のものだから、君だって好きにしていいんだよ?」

「……変だと、思わないんですか」

「なにがだい?」

「俺はアーティファクトです。戦うのが役目なのに、感情は模倣品なのに――それなのに、こんな物語を読むなんて」

「うーん……。ねえ、アキラ。本を読むというのは、情報をインプットすることなんだよ」

「……?」

「ここにはたくさんの本があるだろう? 殆どが機械工学に関する学術書だ。他人の論文や著書は、私がアーティファクトについて研究するときに道しるべになってくれる素晴らしい情報群だからね」

「インプット……」

「君にとってもそれは同じさ。新聞の広告でこの本を見た時、君は何が気になったのかな?」

「……『面白い』とか、『わくわくする』とか、そういう文言が何故か気になって」

「『面白い』も『わくわくする』も立派な感情だ。君はきっと、心の何処かでそんな感情を知りたいと思っているんだよ」

「……」

「君は、私が造ったときからたくさんの感情を得ている。随分と人間らしくなった。いいことだ」

「そう、でしょうか」

「なんで?」

「感情は、判断を鈍らせます。公正な判断ができなくなります」

「ふふ……“兄弟”たちと過ごすうちに、なにかを掴んだね」

「あんなの“兄弟”じゃないです」

「おやおや――まあいい。そうだね、君の言うそれが感情の弱いところ――人間の弱いところだ。君はよくわかっている」

「じゃあ、やっぱり機械に感情は……」

「でもね? 人間にとって、感情に任せて得た判断っていうのは、自分の中で(・・・・・)一番正しい判断になるんだよ」

「……?」

「誰かの判断じゃない。自分がしっかりと考えて、責任の所在は自分にある自分だけの判断。自分の意思って素晴らしいものだよ?」

「……」

「その決定は自分が自分で決めたことだから、誰かのせいにできない。でも、だからこそ自分の物だってはっきりと主張できるのが自分の意思だ」

「……」

「ふふ。まあ、今は実感が無いだろうがそのうち、ね? そうか……君は物語に興味があるのか」

「まだわかりません」

「そうだね。でも、何事も挑戦から始まるさ。この本棚の空きに、なにかこういうフィクションをまた入れておこう。君も欲しいのがあったら遠慮しないで言ってくれていいからね」

「……」

「君の興味を知れてよかった。私は……君の“親”だからね」


<備考>

『春州物語集』は面白かった。面白いって、多分こういうものなんだ。

 追記(3/23):何度も言っているが制作者(マスター)は親ではない。

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