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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Prequel<B>,『セピアの過去』
315/476

315,

 2001/8/12 <log>


「おにいちゃん、あそぼ!」

「……今忙しい」


「あ! 兄さん、あの……」

「後にしてくれ」


「マスター、」

「ん? どうしたんだい、アキラ」

「また、俺の複製(クローン)を造りましたね? 知らないやつが増えてるんですけど」

「クローンじゃないよ、“兄弟”だ。名前は……何がいいかな? 何がいいと思う?」

「知りませんよそんなの――ってか、また造っているんですか? これで何体目だと思っています?」

「……十体目?」

「十五体目です、いい加減にしてください」

「研究のためだから……」

「そう言って、維持管理は全部俺に投げていますよね? 世話できないんだったら造んないでください」

「うう、アキラが怖い〜」

「……チッ」

「うわ、ごめんごめん。舌打ちなんてしないでよ、どこでそんなの覚えてくるのさ。怒らないでって……ほら、みんないい子だろう? 君の手を煩わせることは無いと思うんだけど」

「……」

「ね?」

「『ね?』 じゃないんすけど」

「何が不満なんだい? これだけたくさん“家族”がいるんだ。寂しくないし、むしろいいことだろう」

「別に最初から寂しくはないんですけど。――というか、マジで燃料費とその他諸々、かなり維持費が膨らんできてるんで造るのはこれで最後にしてください。いい加減、部屋も狭っ苦しいし」

「維持費は私の財布から出ているから、君は何も心配しなくていい。部屋が狭いのは――じゃあ部屋を広くしよう。なんなら上に掛け合って、もう一室くらい研究室をもらってきてもいい」

「……」

「? じゃあ、できるだけここから近くて広い部屋を頼もう。所長に言ってみるからね」

「……そういうことじゃないです」

「何がそんなに気に食わないんだい? 言ってくれないとわからないよ、アキラ」

「……」

「……?」


「――キモいんですよ」


「え?」

「俺の身体とおんなじ構造のアーティファクトがたくさんいるのが……不快なんです」

「それは、どういう……だって、これはあくまでもアーティファクトの大量生産を可能にするための実験で、」

「やっぱ、わかんないですか」

「……」

「いいですよ、もう。維持費で破産しても研究室がアーティファクトでパンクしても、俺の知ったことじゃ無いんで」

「ちょっと、アキラ……、」

「他の奴らに呼ばれてるんで行きます」

「アキ……」

「――失礼しました」



<備考>

 制作者(マスター)は家族だのなんだのと言うが、同じ身体(モデル)で同じ内部機構を持ったアーティファクトが密集している状況の不自然さを、あの人は理解していない。アーティファクトの複製品は人間の兄弟や姉妹とは違う。

 マスターには恐らく、『倫理観』や『道徳観』と一般に呼ばれる概念が存在しない。俺ですらそういう考え方のある程度は理解できる――というか理解できるように最善を尽くしてきた。

 その結果、そういう考え方のフィルターに通してみるとマスターの行動は異質なもの、人間として明らかにおかしいといえるものだ。そもそも、人格と生命を備えたアーティファクトを大量に造って、さらにはそれを『実験』とか言っちゃってる時点でもう倫理観は皆無と言える。

 他の奴らも他の奴らでマスターと普通に接しているが、やっぱり理解ができない。あんな変質者のどこを見て“父親”だと思っているんだ?

 ――配属まであと一年と少し。こんなとこ、さっさと出て行ってしまいたい。

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