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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Prequel<B>,『セピアの過去』
314/476

314,

「ワタクシに……ですの?」


 ギルバートと<α0211>は思わず顔を見合わせる。ヨツハはもじもじと小さく縮こまった。


「だって、ギルは名前で呼べるのにお姉さんは“お姉さん”って呼び続けるの、おかしいじゃん。識別番号を呼ぶのもなんか変だし」


「なるほど? まあ……確かに」


 ギルバートもヨツハの言葉にうなずく。<α0211>はよくわからなそうに首を傾げた。


「そんなの――好きに呼べばいいんですわ」


「……いいの?」


「むしろ、なにを嫌がる必要があるんですの? ヨツハのことだから、別に変な名前をつけたりしないでしょう?」


 ヨツハはその言葉に、少し驚いたように目を見開く。


「そんなこと、微塵も思ってないけど……その信頼はどこから来るの?」


「信頼……まあ、そうね。ヨツハはおかしな子だけれど、常識があるのは知っているわ」


「ははっ! 『おかしな子』ね〜」


 ニヤニヤと笑うギルバートにヨツハは頬をふくらませる。


「うるさい! ギルのバカっ」


「うえ!? ひっどーい……やっぱ常識ないよ、この子」


「はいはい、茶化さないでくださる? ……それで、なんて呼んでくれるんですの?」


 ギルバートを睨んで首を傾げる<α0211>。その紫の瞳はじっとヨツハを見つめている。


「え……えっと……」


「……」


「……もうちょっと! もうちょっと考えさせて!」


「えー、なによそれ。ちょっと期待しちゃったじゃないですの」


 呆れたような<α0211>の言葉に、ヨツハは必死に首を横に振る。


「ちゃんと考えたいの! だって責任重大じゃん、名前なんて……」


「そんなに気負うことじゃありませんわ」


「そうそう。アーティファクトの名前なんて……俺のみたいにテキトーでいいの」


「よくないよ!? だって……だって、お姉さんはあたしの大切な人だから、テキトーは駄目なの! だから待って!」


「……」


 ヨツハの言葉に<α0211>は静かに微笑む。その優しげな表情を、ギルバートは横目でそっと一瞥した。


「……はいはい。ヨツハの好きになさいな」


 眉間に皺を寄せて唸り始めたヨツハの横顔を見て、<α0211>は笑う。

 静かに夜が更けていった。



<><><>



「優しいね、ヨツハは」


 焚き火を囲んでの会話から数時間。テントの中で眠るヨツハの寝顔をぼんやりと眺めていた<α0211>は、笑いを含んだギルバートの声に顔を上げる。


「……男子禁制」


「嘘つけ。この前は入れてくれただろ?」


 苦笑しながらも、律儀にテントの外で待っている彼にため息をついて<α0211>も外に出る。ゆったりとした風に顔を上向けて、二人はなんとなくそこに腰を下ろした。


「期待したんだ。ヨツハが名前をつけてくれるのに」


「なにか悪いかしら?」


「いや。君らしくないな〜と思って」


 ギルバートは静かに微笑む。今にも燃え尽きてしまいそうな弱い焚き火の明かりに、その横顔はぼんやりと浮かんでいる。


「ワタクシの何がわかるんですの?」


「ん〜、正直なんにもわかんないけど。でもさ、君が人間に対して何かを期待するほど、おめでたい性格をしているとは思えない」


 違う?

 首を傾げるギルバートに<α0211>はため息をつく。


「貴方も、所詮はアーティファクトなのね」


「そうだね」


「……たしかにワタクシは、人間になにかを期待できるほどに純粋じゃないですわ。でも、ヨツハは純粋だから」


 信頼といえるほど確かなものでもなく、でも信じていないわけではない。

 曖昧な感情を“期待”という言葉に包括して、その根拠を相手が純粋だからということにした。汚れていない、積もりたての雪みたいな白さに――<α0211>は淡い羨望を抱いてたのだ。


「そう」


「なにか悪いかしら?」


「……いや?」


 ギルバートは<α0211>の答えに納得がいったのか立ち上がる。

 かさりと、最後の光を投げて黒く緩んだ薪が崩れた。


「それでいいと思う。君も、思った以上に純粋だよ」

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