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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Prequel<B>,『セピアの過去』
313/476

313,

<α0211>戦線歴2001年5月25日


「はい集合。ふたりに大切なお話があります」


 ――北方・南方境界線の位置が、わずかに北寄りに動き始めていた。要は、ここへ来て戦局が南方軍部に有利になってきていた。<α0211>たちもまた、その動きに合わせた《エレブシナ王国》第一隊の移動によって、《南シレア山脈》の麓から更に北に位置する土地にキャンプを張っていた。


「なに? 改まって」


 ボリボリと音を立てて石炭をかじっていたギルバートが、ヨツハの声に顔を上げて首を傾げる。ヨツハは湯気を立てているマグカップを置いて、真面目くさって正座をした。

 満天の星。テントの前にたむろする三人の顔を焚き火のぬくい光が静かに照らしている。


「――大仰ねぇ。まあどうせ、大したことではありませんわ」


「んなわけないじゃん!」


 木の棒で焚き火の中の薪を動かしながら<α0211>が鼻を鳴らすと、ヨツハはキッと眦を吊り上げる。その表情は、いたって真剣そのものだ。


「ほんとに大切なの、ちゃんと聞いて!」


 ぷうっと頬をふくらませるヨツハにギルバートがニヤニヤと笑う。ヨツハは咳払いをして姿勢を正した。


「ギルに質問です」


「ん〜? はいはい」


「ギルはなんでギルなの?」


「……」


 微妙な沈黙。ギルバートは思わず<α0211>と顔を見合わせる。


「えっと……哲学的問答ってやつ? 『己の存在とはなんたるか』って、こんなに突然聞かれても――ちょっと答えるのに困るかな。真面目に答えるから時間くれる?」


「あ、違う! 違うのごめん……えっとね、そういうことを聞きたかったんじゃないの」


 ヨツハは慌てて首を横にふる。勢いよく揺れた黒髪が、静かに光を反射した。


「えっとね……ギルは、どうしてギルバートって名前なの?」


「――と、いうと」


 よくわからなそうに首を傾げたギルバートに、ヨツハは頬を掻く。への字に曲がった唇がなにかを思案するようにモゾモゾと動いて――静かに言葉を吐き出す。


「ギルはアーティファクトだけど、人間みたいに名前があって――それって誰がどういう意図を持ってつけたのかなって」


「ああ、そういうことが聞きたかったのか」


 ようやくヨツハの言わんとしていることを理解したギルバートは、しばらく顎をさすりながら考え込む。

 パチパチと薪の爆ぜる音が聞こえるほどの沈黙が舞い降りた。


「うーん……特に意図とかはないと思うよ? 俺はさ、量産型アーティファクトの試験体なわけ」


 ギルバートの語りをヨツハはじっと聞いている。そんな二人の様子をぼんやりと眺めながら、<α0211>は焚き火に木の枝を差し入れた。


「研究途中の機体だし、大量生産を目的に造られたから――同型機が結構いっぱいいてさ。多分、面倒見るのもマスターには大変だし、一体一体に割いてる時間も戦時中だから無いし――割とテキトーにつけられたのかなっていうのが正直なところ」


「そうなの?」


「“ギルバート”なんて、エレブシナじゃよくある名前でしょ? いざとなったらこれつけとけみたいな? テンプレートみたいなもんだよ――アーティファクトの名前なんて、識別番号よりも呼びやすければそれでいいんだから」


 苦笑するギルバートにヨツハはうつむく。その表情は少しだけ寂しそうだった。


「あれ。欲しかった答えじゃなかった?」


「んん〜……ちょっとね」


 ヨツハは困ったように眉を寄せながらうなずく。ギルバートの不思議そうな表情に、彼女は頬を掻いた。


「意外にドライなんだね。アーティファクトと制作者の関係って」


「まあ、時代が時代だからね。俺はこんなんだけど、<α0211>はもっと違うんじゃない?」


「大して変わりませんわよ。それより――ヨツハは何がしたいんですの?」


 <α0211>がしびれを切らしたようにヨツハを睨む。彼女はしばらく躊躇うように口をモゴモゴとさせたあと、消え入りそうな声で呟いた。



「あのね、その……お姉さんに、名前をつけてあげたくって」

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