31,
激しい音を立てて、シンプルな作りの剣がぶつかる。
どうやらニ人は、1対1の剣技による模擬戦をしているらしい。
「っ!」
ニ人の距離が離れ、長剣の少年が微かな呻き声を上げる。一方のイツキは涼しい顔をしていた。
「「わあっ!」」
「“カイン”頑張れっ!」
周りの“兵器”たちが口々に叫ぶ。
カインと呼ばれた少年は、顔をあげるとイツキに向かって素早い連続技を叩き込む。
「わあ……速い」
陽の光の眩しさに目を細めながらも、天音は呟く。剣技についてはこれっぽっちも知らない天音だが、そんな彼女が見てもわかるほど、カインの動きは鍛え上げられたものだった。
しかし、
「……まあ、そんなもんか」
「なっ!?」
イツキはカインの攻撃をあっという間に躱してしまう。カインが目を丸くした。
「ここが、隙な」
イツキはそう呟くやいなや、自分の剣を上に跳ね上げ、カインの長剣の鍔に当てる。
「うわっ!」
あっという間にカインの手から長剣が抜け、宙で一回転して地面に突き刺さる。その衝撃で後ろに倒れ尻餅をついたカインの鼻面に、イツキは剣を突きつけた。
「……っは」
「終了」
シミュレートの終わりを告げる言葉とともに、イツキは剣を下ろす。カインがぐったりと仰向けに寝そべった。その息は荒かった。
「速さはあるが隙が多い。特に連続攻撃が終わった後のインターバル。死にたくなかったら相手の攻撃をよく見ること。あと、その持久力の無さをどうにかしろ」
「はあ、はあ……はい――っ、」
淡々と弱点を指摘するイツキを見上げて、苦しげに息をしながらもカインはうなずく。そんな彼を一瞥して、イツキは周りを見た。
「次のやつ、出てこい」
その言葉とともに、我先にと周りの“兵器”たちが手を挙げる。そんな彼らの様子を、イツキはうんざりとした様子で眺めていた。
「――あれ?先生」
不意に後ろから声が聞こえて、天音は振り返る。そこにはアキラが立っていた。
「どうしたんすか?こんなとこで」
「……あれを、見てたんです」
天音は外の修練場を指差す。天音の肩越しにその様子を見たアキラは、納得したように苦笑いした。
「将軍以外に強いやつが出てきたんで、みんな手合わせしてもらいたくてしょうがないんっすよ」
「イツキさんは――強いですね」
天音は感嘆したように呟く。アキラがふふん、と笑った。
「そりゃあそうっすよ〜。――プロテクション持ちっていうのもあるけど、それ以上に第一次機械戦争以前から生き残ってきてるんだから。俺やあいつらなんかとは経験値が違う」
アキラは笑って、天音の隣に立って修練場を見る。そこではもう既に二戦目が始まっていて、再び歓声と野次が飛び交っていた。
「俺も昔、あいつとシュミレートしたことあるっすけど……まあ、絶対に勝てないっすよ」
“兵器”の一人を相手に剣を振るうイツキを、アキラはどこか眩し気な眼差しで見つめる。
「戦場では基本素手で戦うのがイツキのやり方なんですけど――あいつ、近接武器なら何でも使えるんっすよねぇ」
「そうなんですか?」
天音は少し驚いて、アキラを見上げる。アキラは苦笑する。
「マジ化け物っすよ、あいつ。普段はプロテクションを最大限に活かすために素手で戦ってるだけで、剣とか斧とか――手に持って振り回せれば、何持たせても強いっすよ」
笑ったまま肩をすくめて、アキラは天音を見る。しかし、天音の表情は曇っていた。
「どしたんっすか?」
「――いえ、」
――だから、傷だらけだったのかな……
天音の思考はイツキの天才性よりも、無茶な戦い方のほうに向いていた。あのとき――修繕したときに見た、大きな怪我の数々を思い出す。
戦場に出たことも、まして戦ったことすらない天音には、あくまでも想像することしか出来ないが……
素手で戦う。ということは、武器を持った敵を相手にする時は不利になるということだ。いくらプロテクションを活かした戦いをすることが求められているとしても、
――あまりにも、リスクが高すぎる
天音は顔を上げて、騒がしい外を見る。息ひとつ乱さずに剣を振るうイツキは、まるで舞を舞っているかのようだった。
「いいなぁ〜。俺も後で一戦やってもらお」
表情を消した天音とは対照的に、のんびりとした声で笑うアキラは、ぐいっと伸びをする。気がつけば二戦目も終わっていた。