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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Prequel<B>,『セピアの過去』
308/476

308,

 2000/12/7 <log>


「身体の調子はどうだい? 感覚器官とか、動作とか――違和感があったら教えてくれ」

「動作及び感覚に関する異常――検出無し」

「よし……うん、いい出来だ。現身がどうなるか少し心配だったが――素晴らしい。完璧だな」

「……」

「それじゃあ、ネットワークへの接続を許可するね。ああ、あと会話言語のインストールも。もう少し人間らしくいてくれたほうがありがたいからね――今日から君は、この《アスピトロ公国》を守る騎士だ」

「……」


 《北方軍部ネットワークへの接続・並びに会話言語系のインストール》

 《待機中》

 《待機中》

 《上記操作の完了》


「――アスピトロ第一部隊への配属ですか」

「おお、だいぶそれっぽくなったな。そうだよ、君は……最前線で戦うことになる」

「はい」

「……」

「……」

「まあ、君が本格的に戦場に配置されるのはまだ先の話になる。しばらくは私の管理下で色々準備することになるからね」

「何故ですか」

「ふふ……軍本部からは、そんな悠長なことをしていないで早く君を寄越せと言われているんだけどね」

「すぐにでも現地で戦えます。そのようにプログラムされています」

「うん、知っているよ。そうしたのは私だからね。でも……」

「……」

「君も気づいているだろう? 君は新型の機械人形(アーティファクト)だ。機能も、それに伴う不具合も未知数――私にもそれはまだわからない。だからね、君のことをよく観察したい」

「研究のためですか」

「それもある。現に君という存在は、北方軍初の武器の形をした機械人形。すぐに戦場にやって壊してしまうのは惜しい。でも、それ以上に――」

「……」

「ここまで、私自ら手塩にかけて造り上げてきたんだ。君は、私の息子といったって過言ではないからね……もう少し一緒にいたいっていう、私の我儘だよ」

「……あなたから生まれたわけではありません。その表現は間違っています」

「そうだね。でも、その間違いはあくまで文法上的な、辞書的な間違いだ。私としては、この表現のどこにも間違いはないよ。君は私の“家族”だからね」

「家族」

「ああ、そうだ! どうせなら君の“兄弟”も造ってあげよう。賑やかで楽しくなる」

「それは、戦争のために――制作者(マスター)のためになりますか」

「……」

「……」

「さあね」

「では何故、そのような無駄なことを」

「無駄ではないさ。私にとってはなにひとつ無駄ではないよ。戦争のためには、恐らくならない。でも私のためにはなるかもしれないね」

「……」

「二年――軍本部から、君を納品するまでに二年の猶予をもらっている。本当はね、君は今すぐにでもここを発たなければならない。でも、君の身体が不完全なことを理由にして、君の配属を待ってもらっているんだ」

「俺は……」

「ん?」

「俺は、ここで何をすればいいんですか。どうすれば、あなたの役に立てますか」

「――ここにいてくれればいい」

「それが、どうあなたの役に立ちますか」

「根拠が必要かい? そうだな……私は、君について色々と研究する。無事、動かすところまで来れたのはいいが、君のこれからの動作も不具合も未知数だ。それを見せてくれれば、君は私の役に立ったことになる」

「……はい」

「君は優しいな」

「感情はこれからインプットします。この不十分なものは、『優しい』と呼ぶにふさわしいものではありません」

「本当にそうかな?」

「はい」

「――まあ、いい。そうだね。これから二年、君に感情を教えるのも私の役目だ」

「それは――感情は、戦場で役に立ちますか」

「さあ? でも、その可能性は高いと思うよ。少なくとも、私はね」

「はい」

「さて……色々忙しくなるよ。やらなくちゃいけないことがたくさんあるからね。外部データをいくつかインストールしないと……ああ、でもその前に」

「なんでしょうか」

「君に“名前”をあげよう。製造番号(シリアルコード)でもいいんだけどね、呼びづらいから。なにか希望はある?」

「マスターにおまかせします」

「そう? ふふ、難しいな。そうだなぁ、じゃあ……」



「『アキラ』と呼ばせてもらおう。君の、その素敵な髪色にあやかって」



<備考>

 呼び名を製造番号<39021>に代わって<アキラ>と変更。

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