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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter9,『過去に続く道』
302/476

302,

「シオンっ!?」


 アキラの叫び声がロビーに響き渡る。喧騒の中、入り口から現れたのは『遺物境界線(レリックボーダー)』外周の西側を警備していたシオンとカインだった。


「アキ……にい、」


 黒い泥と機械油(グリス)にまみれたシオンが、ぐったりと動かないカインに、ほぼ担ぐようにして肩を貸していた。膝をついたシオンの体をどうにかしてアキラが支える。彼女の体は傷だらけだった。


「何があった? どうして……こんな、っ」


「診せてください」


 切羽詰まったアキラの声に天音が駆け寄ってくる。手に持った重い工具箱を荒々しく床に下ろして、彼女はシオンの顔を覗き込んだ。


「……パーツの欠損はありませんね?」


「たぶん、だいじょう、ぶ……でも、カインが」


「“本体”を貸してください。カインさんより、あなたのほうが損壊が大きいですから」


 冷静な天音の声に、シオンは背中から“本体”を抜く。受け取ったそれに早速修繕(リペア)を施しながら、天音はちらりとアキラを見た。


「早く燃料補給に行ってください。今にも死にそうな顔をしていますよ?」


「え……でも、」


「アキにい、大丈夫だから」


 シオンは体を起こして微笑む。アキラは躊躇うように眉を寄せたが――そっとシオンから手を離すと、ふらふらと歩いていってしまった。


「ごめん、先生……なおる、かな?」


「当たり前です。それより、何があったのか教えてもらってもいいですか?」


 顔を上げないまま尋ねる天音。忙しく手を動かすその様子を、シオンはじっと見つめていたが――やがて息を吐き出した。


「カインが……なんかよくわかんないんだけど、急に暴れ始めて」


「……カインさんが?」


 首を傾げる天音に、シオンはうなずく。不安が滲む榛の瞳が、カインを見つめていた。


「ボーダーの西側を警備しながら、あれこれ話してたんだ。そしたら――急にカインの様子がおかしくなって……」


「様子がおかしく?」


「頭が痛いって言い始めて……ベースに戻ろうとした時、急に“本体”であたしに斬りかかってきたんだ。抵抗したんだけど、カインの体を傷つけるわけにもいかないから」


 しょんぼりとうなだれるシオン。天音は再びシオンの“本体”に目を戻した。


「それで、こんな怪我を……」


「とりあえず、素手で殴って止めてある。ちょっと、どこに当たって電源が落ちたのかはわかんないんだけど……うう、変な壊れ方してたらどうしよう」


「……どのみち、カインさんも怪我をしているみたいですから――傷のひとつやふたつ増えたところで、直すのにそんなに支障はありませんよ」


 気がつくと、素早く動く天音の手の中で、部品のいくつかがばらけてしまっていた機械長弓(コンパウンドボウ)は元の姿を取り戻していた。天音はようやくまともに顔を上げると、直したばかりのそれをシオンに差し出す。


「ひとまず応急措置しかできていないので、またメンテナンスをしましょう。小さな傷があまりできていなかったのが不幸中の幸いでしたね」


「ありがとう、先生」


 現身を試すように動かしながらシオンは笑う。天音は彼女の肩にもたれかかったままのカインに目をやった。


「さて、問題はこっちですが……」


 硬い床に仰向けに寝かせる格好で、天音はカインの体を舐めるように観察する。


「急におかしくなった……暴れ始めた……頭痛」


 口から零れ出る思考は、ぐるぐると頭の中を駆け巡っている。こんな状況にひどく既視感があった。


 ――何回もこの手を使うなんて


「学ぶということを知らないのか?」


 天音は深く深呼吸をすると、カインの“本体”に手を当てる。鈍く光る長剣。そのひんやりとした《セイレント鉱》製の剣身(ブレイド)を指でなぞって、天音は目を閉じた。

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