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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter1,『為政者たちのプロローグ』
3/476

3,

「……ポリティクス・ツリーここの格納庫にある、“精霊護符タリスマン”の封印を解こうと思う」




「……は?」


 サスナは驚きのあまり的場を凝視する。しかし、的場が冗談を言ったわけでもふざけているわけでもないのも、分かりきったことだった。


「え……。本気で……言っているんですか……!?」


 普段あまり感情の上下が無いルイスも、思わず声を荒らげる。しかし的場は、微かに口元を緩めるのみだった。


「うん。僕は本気だ」


「……本当に……あの『死神』を使うおつもりですか」


 ヨシュアの低い声が、殺風景な部屋に響く。その声には咎めるような色が透けていた。


「いくら大元帥様の言うこととはいえ……、こればかりは看過できたものではありません。……()()は――人間が使うには、あまりにも強すぎる」


 ヨシュアは、前の大元帥の時代からセナトスをしている男だ。この中で一番年上で、一番思慮深い彼の言うことは、まさに正論であった。


「……そうだね」


 ヨシュアの顔を見上げて、的場はそう呟く。しかし、彼の覚悟を決めた瞳は、揺らがなかった。


「……この街ができてから、百年。幾度もの困難を、先人たちは乗り越えてきた」


 的場は、サスナたちから目をそらして、大きな窓に歩み寄る。

 ここはポリティクス・ツリーの最上階。この“首都”の支配者である大元帥と、彼の政治補佐を担う“元老院セナトス”と呼ばれる五人の政務官のみが、入ることを許された特別な場所だった。

 大きな窓からは首都の街並みと…ポリティクス・ツリーよりも更に高くそびえ立つ、『遺物境界線レリックボーダー』を望むことが出来る。人々の営みを鮮やかに映し出す、その景色を見て的場は呟いた。


「もう……形振りかまってはいられないんだ。かつての大元帥たちが創り上げてきたこの街の平穏を……壊すわけにはいかない」


 その声は静かで……それでいて誰にも揺るがすことの出来ない強さがあった。

 そして彼はセナトスたちをを振り返る。その顔には、どこか困ったような……それでいて優しい微笑みが浮かんでいた。


「確かに、あの精霊護符タリスマンは最も強く……最も恐ろしいアーティファクトだ。みんなが危惧していることは勿論正しいし、あれが僕たち人間の手に負えるものではないのは……百も承知している」


 ただ。と的場は先を続ける。


「僕は――僕たちは、この“首都”の管理人として……、ここで生きる全ての人間を守るために全力を尽くさなければならない。だから、」


 分かってくれる?的場が困ったように問う。




「……僕は、賛成です!」


 ふと、場にそぐわない、朗らかな声が響いた。見ると、瀬戸が手を挙げて的場を見ている。


「タリスマンがどうのこうのとか……僕には、あんまりよくわかんないんですけど。――茜様が言う事なら、間違いは無いと思うんです!」


 その目には――絶対的な信頼が宿っていた。


「……私も、大元帥様の考えに賛成します」


 阿久津も、真剣な表情で的場を見つめる。

 的場は優しく微笑んで……サスナたちをちらりと見る。


「別に……反対なんて、恐れ多いことはいたしません」


 そっぽを向いて、気まずそうに呟くルイスと、


「……分かっていますよ。やっぱり、閣下には敵いませんね」


 力の抜けたように笑って見せるサスナ。そして、


「……」


 無言で、しかし穏やかな目で、的場を見つめるヨシュア。



 ――元老院セナトスの意見は決まった。



「ありがとう……みんな」


 的場は嬉しそうに微笑む。それにつられてこちらも嬉しくなるのは、場の雰囲気か、それとも……的場()のカリスマか……

瀬戸 紘汰 (17)

種族:人間

セナトスの一人。メンバー最年少。いつも阿久津にくっついている。年相応の幼さを自覚して武器にする、あざとい性格の持ち主。


ルイス・レイファン (29)

種族:人間

セナトスの一人。阿久津と仲が悪い。『高貴なる人々(アリストクラシー)』、レイファン家の出身。

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