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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
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29,

「それで、戦況は?」


 首都中枢塔一階。広々とした広間に、穏やかな声が響いた。


「今週の襲撃は一回。『遺物境界線レリックボーダー』の南東部およそ三百メートルの位置に出現し……無事、撃退いたしました」


 ゲンジはいつものだみ声で、ただ淡々と報告をする。――周りに座る、元老院セナトスの面々には緊張が走り、目の前の人物……的場は目を細めた。


「……詳しく」


「数は正確には集計できておりませんが……おそらく、百から百五十くらいかと」


 答えたのは、ゲンジのそばに控えていたローレンスだった。


「量産型の『Ⅰ型』アーティファクトが主でしたが――その中に『再構築製造機リサイクラー』がありました」


「『リサイクラー』?」


 的場の疑問に、ローレンスはうなずく。


「かつて、北方軍で使用されていたアーティファクトです。一定量のアーティファクトの残骸から、新しいアーティファクトを産み出すことが出来ます」


 ローレンスの言葉に、元老院セナトスのメンバーがざわつく。しかしそのざわめきは、的場が口元に人差し指をやることによって、瞬時に止む。


「続けて」


「――これはあくまでも見立てですが……形状からおそらく、第一次機械戦争以前に製造されたものであるかと」


「……詳しく知りたいな。復元は出来ないのか?」


 ローレンスの曖昧な物言いに、的場は首を傾げつつもそう尋ねる。ローレンスは一瞬口籠った後、続ける。


「申し訳ありませんが……当の機体が残っておりませんので」


「――それは、何故」


 ここで口を開いたのは、ヨシュアだった。その問いに、今度はゲンジが答える。


「先日、ベースに寄越していただいた新しい“兵器”が著しい活躍を見せまして。……“精霊の加護(プロテクション)”によって一瞬で灰にしてくれましたから」


「プロテクション……。まさか、あの精霊護符(タリスマン)か?」


 阿久津が目を丸くする。ローレンスがうなずいた。


「はい。配備が完了し、滞りなく任務を遂行しています。分かりきっていることですが、性能も申し分ありませんので」


 その言葉に、阿久津は瀬戸と顔を見合わせる。的場がふっと微笑んだ。


「なら良かった。……こんなこと言えた義理じゃないけど、みんな仲良くね」


「分かっていますよ。――じゃあ、そろそろ失礼しますね」


 ローレンスは呆れたように肩をすくめて、一礼するとその場を去っていく。ゲンジもその後に続こうと振り返る。と、



「……天音殿は、お元気ですか――?」



 不意に後ろからそんな言葉が聞こえて、ゲンジは立ち止まる。

 ヨシュアがこちらを見ていた。


「ええ。これといった問題もなく、修繕リペアを続けてくれていますが」


「そうですか。なら……良かった」


 お引き止めして。とヨシュアは頭を下げる。ゲンジは不思議そうな顔をしながらも、今度こそ大広間を出ていった。




「――そんなに気になるのなら、会いに行けばいいのに」


 “兵器”たちの後ろ姿を見送って、的場が微笑む。ヨシュアは目を閉じた。


「その資格は……私にはありませんな」


「そうかな?案外、修繕師殿は気にしないんじゃ無いかな」


 むしろ。と的場はヨシュアの顔を覗き込む。


()()()()セナトスとして働いてたのはヨシュアだけだったんだから……きっと、君の話を聞きたいと思うんじゃないか?」


 優しげに目を細める的場に、ヨシュアはわずかに微笑む。


「――あのとき、()()()()()()()()()のもまた、私です。……恨まれていても当然、というほどですな」


 静かな声の中には、僅かな諦めと……悲しみがこもっていた。



 大広間を、穏やかな沈黙が満たした。

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