28,
「……そうか――?」
――しばらくの沈黙の後、イツキが呟いた。
「俺は……こいつらが羨ましいけど」
「――え?」
“羨ましい”
意外な言葉に、天音が顔を上げる。訝しげな視線を受けて、イツキは淡々と言った。
「こうやって、ばらばらになって朽ちる以外、アーティファクトに死は訪れない。――ずっと戦って、やっと死んで、……部品になって使ってもらえるのが、羨ましい」
ここでイツキは、ふっと微笑む。天音が目を丸くした。
「俺はプロテクションの影響で……たとえ死んだとしても、部品にはなれないから」
どこか言い訳がましくそう呟くと、彼はもう一度目の前に横たわる死体を眺める。
「どうせ、俺達の存在価値なんて戦うことしかないんだ。生きてるか死んでいるか、わからないような状態で戦い続けるくらいなら――いっそ、誰かの一部になって自分を見失っていたほうが、戦うには辛くない。それか……」
イツキは不意に、右手の手袋を取ると――手を伸ばして死体に触れる。
天音が何を言うまもなく、その死体は灰になって消えた。
「こうやって、跡形もなく消えてしまったほうがいい」
地面に残った僅かな灰を、イツキは手で掬い上げる。その手を掲げて広げれば、また吹いてきた風にその灰はさらわれていった。
「――でもやっぱ、消えるくらいなら修繕に使われたほうが良いな」
その軌跡を目で追いながら、イツキはまた呟く。
「そんな……ものなんですか?」
天音が顔を伏せ、掠れた声で尋ねる。イツキは彼女を横目で見た。
「そんなもんだろ。……どいつもこいつも、アーティファクトなんてのはお前より何倍も永く生きてきてるんだから」
イツキは手袋を外した右手を見る。
「人間の命はあっという間だから……終わりにこだわる考え方があるんだろうな。正直、俺はそこまで考えてないから――あんまり共感できない」
そのままニ人は、しばらくの間黙ってしゃがんでいた。
四月とは言えど、涼しい風が吹いてくる。
その冷たさに、顔を伏せたままの天音の肩がふるりと震える。
「……お前、まだ“拾い物”するのか?」
ふとイツキが立ち上がる。天音は顔を上げた。
「もう……少しだけ」
天音も立ち上がる。銀色の髪が風になぶられて、蒼い目がちらりと覗く。
その瞳が濡れているように見えたのは――本当か、光の悪戯か
「使わない死体は教えろ。……敵に使用される前に、俺が消す」
「わかりました」
中途半端に差し込む、淡い陽の光は形を変えていた。
その中を歩く人影がふたつ。
白銀の髪と、黒いマントが、ゆったりと翻った。