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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter2,『100年の眠りの先』
27/476

27,

 さっきまで晴れていた。四月の空が曇り始めた。

 中途半端に差し込む光の中を、歩いてくる人影がひとつ。


『ザク、』


 この時期の『遺物境界線レリックボーダー』の外側は乾燥している。

 さっきの戦闘で上がった砂煙が、まだ立ち込めていた。


「……こほっ」


 天音は軽く咳をすると、外套の襟元で口元を覆う。


「酷い、有り様……か」


 ――大地を覆う、アーティファクトたちの“死体”。鉄さびと、油と……その他よくわからない焦げ臭い匂いが、あたりに充満している。


 天音は死体のひとつの脇にしゃがみ込むと、そっとその体に触れる。

 ぐにゃりと外側に曲がった足。引きちぎれ、バラバラになった腕と手。無機質なガラス玉の目を、天音は覗き込む。


「……ごめんなさい」


 小さな声でそう呟くと、彼女は千切れた腕を持ち上げる。バラバラと、切断面から金属製の部品がこぼれ落ちた。


 ――“旧型機”仕様のアーティファクト……


 あのタリスマンと同じように、現身が機械として構築されている古いタイプのアーティファクト。

 そんな機体を生産できるということは……あのリサイクラーも、相当古い型のものだったらしい。



「これなら……使えそう、」


 腕から外したギアは、古いが貴重なものだった。


 しばらくの時間、そうやって使えそうな部品をより分けて、持ってきた袋に入れていく。

 死体は、よりバラバラになってしまった。


「ごめんなさい……」


 ――こんなふうに……傷つけてしまって、




「――ここにいたのか」


「!」


 不意に後ろから声がして、天音ははっと振り返る。

 見たことのある黒いマントを着た人影が、彼女の後ろに立っていた。


「冷静に見てみると……やばい絵面だな、これ」


 あたりを見回してイツキは呟く。


「な、んで……」


 動揺を隠しきれない天音の声は、僅かに上ずった。


「別に。“拾い物”、とやらに興味があったから」


 イツキの声はあくまで冷静だった。

 彼はそのまま、天音の隣にしゃがむ。天音の肩が揺れた。


「あんまり……見ないほうが、」


「それは、お前も一緒だろ?」


 小さな天音の声に、イツキは呆れたようにため息をついた。


「馬鹿なのかよ……、こんな事、ずっと独りでやってるなんて」


 目の前に転がる死体の、ガラス玉の目を覗き込むイツキ。そんな彼の横顔を眺めて――天音はうつむいた。


「こんなの……誰にも見せられないから」


 イツキはその言葉に顔を上げ――じわりと目を見開く。一瞬見えた天音の目は昏い色をしていた。


「戦って、殺されて……挙句の果てに待っているのが、こんな惨い運命ですよ。私みたいな愚かな人間たちに作られて、戦わせられて――挙句の果てに待っているのが、その人間にぐちゃぐちゃにされることなんですよっ」


 彼女の表情が長い髪に隠れた。その声は微かに震えている。

 風がやんだ。


拾い物(これ)をしなければ、“兵器”の皆さんを直すことは出来ない。でも、誰にも……見せられません。こんなの。きっと、皆さんに嫌な思いをさせる……。何より、」


 天音は手をギュッと握る。爪が手のひらに食い込む痛みが、震えて途切れそうな彼女の言葉を明瞭にする。



「――そんな詭弁を振り回して、未だにこんなことをしている人間()自身が……、醜くて、情けなくて――反吐が出そう」



 ――何を言ってるんだろう、私は


 今まで、誰かにこんな事を言ったことはなかった。なんで今更、こんな――

 天音は密かに唇を噛む。微かに鉄の味がした。

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