25,
――一方、イツキは『再構築製造機』を破壊するため、最短ルートでアーティファクトの軍勢を走り抜けていた。
「あと、」
百メートル弱。
着々と目の前に近づいてきた巨大な箱に、イツキは真っ直ぐ照準を合わせる。
――と、
すぐ後ろから、刃物を振り回す風切り音が聞こえ……
「あっぶねぇ!後ろくらい見ろ、イツキっ」
ドサッと敵方のアーティファクトが転がる音と同時に、すぐ横にアキラが現れる。
「来るのが遅い」
「――さてはお前、わざと避けなかったな……」
涼しい顔をするイツキを、アキラは苦々しく横目で睨む。
さらに、その後ろからは――
「アーッハッハッハッハ!さっさと死ぬのですわ、愚か者どもっ!」
高笑いとともに絶え間のない、激しい銃声が聞こえた。
思わずイツキが後ろを振り返ると、ドレスを着ているとは到底思えない身のこなしで、二挺拳銃を振り回して暴れるアザレアがいた。
頬に飛び散ったどす黒い工業油が、彼女の残虐な活躍を示唆している。
「……ぅわ」
「見るな。目があったら味方でも殺られるぞ」
頬を引きつらせるイツキに、アキラは苦笑する。
「――今、残りの奴らが二手に分かれて軍勢を挟み込んでる。……それで?」
アキラの言葉に、イツキは再び前を向く。
「とりあえず俺は、『再構築製造機』を殺りに行く。俺にヘイトが向かないように出来るか?」
「あ?ったりめーだろ!……俺が死ぬ前に終わらせろよ」
「……了解」
目配せをして、ニ人は別々に走り始める。
「おらおらーっ!敵はこっちだ、雑魚どもっ」
アキラは大声で叫んで、自分の“本体”を振り回す。大振りなため通常の剣よりも間合いが広いそれは、周りにいたアーティファクトたちを一斉に屠り去った。
それを見て、アキラに襲いかかる敵が増える。
「……」
イツキはその様子を横目で眺めながら、手薄になった敵軍の最深部に一気に切り込む。
周りのアーティファクトたちを避けるために、助走をつけて空高く飛び上がると……
「……もらった」
箱の天面に、勢いよく拳を叩きつける。
一瞬の間の後、
『********――!』
言語として解読不能な断末魔を上げて、黒い箱は灰になって消滅した。
「――いやー、そろそろ限界……」
大量のアーティファクトに群がられて呟くアキラの頭上から、
「うわっ!?」
「……悪い、ミスった」
勢いそのままに落ちてきたイツキが、ひらりとアキラから少し離れた地点に着地する。
イツキが両腕を軽く振り回すと、彼の手に触れたアーティファクトたちが消滅していった。
「とりあえず、あのデカブツは殺った」
「よっし!」
イツキの言葉に、アキラがガッツポーズをする。
――この戦果によって、アーティファクトの大群は確実に殲滅されていった。
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「……どうですか?」
「巫剣先生!」
戦況を見ながら指示を飛ばしていたローレンスは、後ろから聞こえた声に振り返る。
分厚い外套を着た天音が、ローレンスの横に来て戦場を見下ろした。
「もう終わります。イツキが『再構築製造機』なるアーティファクトを潰してくれたので」
「“リサイクラー”?……ああ、北方軍製のアーティファクトですか」
遂に戦場にまで出してきたんですね。天音はそう呟く。
「……と、言うと?」
「リサイクラーは、“大戦”中でも貴重なアーティファクトのひとつとして数えられていたほどに製造台数か少ない機種なんです」
天音は戦場の喧騒に目を凝らす。
「敵も、それだけ焦っていると言うことです。……そうじゃなきゃ、わざわざリスクのある戦場に、貴重なアーティファクトを投下する必要はない」
天音はちらりとローレンスを横目で見る。
「おそらく、相手方の人員も減ってきているのでしょう。……だからあえて、損壊したアーティファクトの部品を回収しやすい戦場に、あれを持ってきた」
「……なかなかに、エグいことを考えますね、相手も。――“死体”からアーティファクトをつくって戦わせるなんて、」
無限地獄じゃないですか……。ローレンスの言葉に、天音はボソリと呟く。
「そんなの、人間だって一緒です」
――小さい声だから、ローレンスには聞こえていない。
少なくとも、天音はそう思っていた。