24,
――気がつけば、すぐそこまで軍勢が近づいてきていた。
「お前、武器は何を使っている?」
軍勢を眺めて、イツキがアザレアに問いかける。
「……飛び道具ですわ。でも、近接でも問題はありません」
「それでいい」
イツキはちらりと横目でアザレアを見る。
「少し下がって援護を頼む。……できれば、アキラが戻ってくるまで待て」
「……え!?でもっ、」
しかし、アザレアが言い終える前に、イツキは軍勢に向かって歩いていってしまう。
「ちょっと、イツキっ!」
アザレアの叫びを無視して、イツキは、マントのフードを払う。黒い髪が、強い春の風に靡いた。
「……」
イツキは一言も発さないまま、軍勢の目の前に歩み寄っていき……手にはめている、黒い革手袋を外した。
「……可哀想に、な」
彼は、誰にいうとなくそんなことを呟いた。
アーティファクトたちは、そんなイツキに勢いよく突っ込んでくる。
「イツキっ!」
アザレアの鋭い叫び声が響くと同時に、
『タンッ!』
イツキは軽やかに走り始めた。
――彼のやることは、実にシンプルだ。
「「うおおおおおっ!!」」
雄叫びをあげながら突っ込んでくるアーティファクトたちの攻撃を躱しては、
「……」
無言で彼らの体に触れていく。
たったそれだけのこと、なのだが、
『っ!』
触れられたアーティファクトたちは、声を発することも出来ないままに、灰になって消えていく。
イツキはそのまま、軍勢の奥に向かって一直線で進んでいく。
「!……そうか、そうですわ」
彼の動きを見て、アザレアはやっと、イツキのやりたいことを理解した。
そんな彼女の後ろから、
「アザレアっ!」
「……アキラ」
アキラと、彼に引き連れられたゲンジたちがやってきた。
「どうなってる……って、イツキっ!?」
アキラは、たった一人でアーティファクトの大群に突っ込んでいくイツキを見て叫ぶ。
「あいっつ、なんて無茶をっ!」
「待ってアキラ!」
急いでイツキを追いかけようとするアキラを、アザレアが制止する。
「あれはイツキの“作戦”なのですわ、」
彼女は、イツキが向かっている方向を指差す。
「あれは……『リサイクラー』……!?」
アキラの言葉に、アザレアがうなずく。
「どういうことだ?お嬢……」
ゲンジがアザレアを見る。彼女は振り返って言った。
「あれはアーティファクトを作る装置なんですの」
「なっ!?」
目を丸くするゲンジと周りのアーティファクトたちに、アザレアは更に説明する。
「あれがある限り、敵方は際限なく人員を産み出すことが出来る……。だからイツキは、あれを一番に潰すつもりなのですわ」
アザレアの言葉に、ゲンジは一瞬惚けるが――すぐに顔をあげると、『遺物境界線』の方を振り返る。
「だとよ、ローレン!どうするっ」
『了解しました』
ゲンジの問いに返ってきたローレンスの答えは、この場にいる全員の頭の中に響き渡った。
ローレンス本人は、戦場を俯瞰することが出来るボーダーの上の見張り台にいる。
「さっすが……無線機能搭載の最新機種だな」
アキラが呟く。ローレンスの言葉は更に続いた。
『先行部隊、アキラとアザレアはイツキの援護をしながら前に。残りはゲンジの指示で二手に分かれて、両側から軍勢を包み込む形で攻めます。……一匹も、『遺物境界線』を越えさせてはいけませんっ!』
「よっしゃ、任せろ!」
ローレンスの指示に、アキラは二カッと笑い、腰に吊るした自分の“本体”を抜く。
オレンジ色の刀身が、陽の光に明るく輝いた。
「アキラは前に。ワタクシは後方からの援護ですわ」
アザレアもそう呟くと、両手を前に出して広げる。その途端、彼女の両手を紫色の光が包み込んで――
現れたのは、ニ丁の古式銃だった。
ぐっとそれを握って、アザレアは不敵に笑う。
「行くぞっ」
アキラの一言で、ニ人は走り出した。