23,
『緊急事態、緊急事態……』
「きゃっ?!」
仕事が一段落したのか、アザレアと談笑していたローリエが、怯えたように耳をふさぐ。
警報音のようなそれは、頭の中に直接響き渡る不快なものだった。
「っ!襲撃だっ」
アキラの言葉に、イツキたち三人は食堂を飛び出す。
周りには、同じように警報を聞いて出てきた“兵器”たちが少なからずいた。
「どこだ……どこに出やがった!?」
『遺物境界線』に沿って猛スピードで走りながら、アキラが呟く。
繰り返される警報は、『緊急事態』の一言ばかりだ。
「……この先だな」
不意にイツキが呟く。
「え?何故わかるんですの?」
アザレアが驚いたように横目でイツキを見る。
「……アーティファクトの生体反応。数は百前後。場所はここから南東に五百メートル」
「“索敵”かぁ……。ったく、そんなものまで標準装備なのかよ。便利だなぁ“旧型機”っ!」
アキラが呻く。
そのまま、彼はイツキを見た。
「俺はローレンスと将軍にこの情報を伝えに行く」
「分かった。さっさと戻ってこいよ」
イツキからの応答にアキラはうなずくと、ひとり進路を変更してひらりと去っていく。
「こっちだ」
イツキは目の前にある通用口から、『遺物境界線』の外側に出る。アザレアが後に続いた。
遺物境界線の外側は、人の住むことの出来ない荒れ果てた土地だ。
そんなボーダーの外には、惨状が広がっていた。
「これはまた……随分と集まりましたわね」
アザレアが目を眇める。
目の前には、イツキたちと同じように人間の姿をしたアーティファクトたちが群がっていた。
「最近、ずっとこうですわ」
「……こうって?」
イツキはアーティファクトの軍勢から目を離さずに、アザレアに問う。
「数が異常なんですわ。ワタクシたちですら五十名弱ほどしか人員がいませんのに……」
「……多分、あれのせいだろうな」
イツキが呟き、ある一点を指さした。アザレアが目を凝らす。
――それは巨大な箱のようなものだった。真っ黒で、滑らかな石のようなもので作られている。何の取っ掛かりもないように見えたが……ただ一箇所、側面の真ん中あたりに穴が空いている。
「あれは……」
「かつて北方軍で使われていた、アーティファクトの一種だ」
イツキはその箱をじっと睨みつける。
「『再構築製造機』と俺たちは呼んでいた……。壊れて使い物にならなくなったアーティファクトの体を使って、再びアーティファクトを作り出す機械だ」
見ろ。とイツキが言う。アザレアが再び、その箱を見ると……
『ゴポッ……』
奇妙な音を轟かせて、その箱が……側面の穴から、人の姿をしたなにかを吐き出す。
「っ!あれ、まさか……」
そのなにかが、ゆらりと立ち上がり……こちらに向かって歩く軍勢に加わるのを見て、アザレアが息を呑む。
「あれは量産型の『Ⅰ型』アーティファクトを作るタイプだな。……ある程度の部品があれば、新しいアーティファクトを産み出すことが出来る」
「そんな……今まであんなモノ、ありませんでしたのにっ」
アザレアの叫びが、虚しく荒野に響いた。