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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter2,『100年の眠りの先』
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22,

「いらっしゃいませ〜、あ!アザレアちゃん!」


 中に入るとすぐ、アザレアに飛びついてくる小さな人影があった。


「おはようなのですわ、ローリエ。あら、今日も可愛いおさげですわね!」


 アザレアは、その少女に合わせてしゃがみ込む。

 彼女の言葉に、ローリエと呼ばれた少女は嬉しそうに笑った。


「ああ、おはようございます」


 店の奥からも声が聞こえて見ると、カウンターの向こうからエプロンをつけた男がこっちを見ていた。


「おはようございます、マスター。今日もいい天気っすね!」


 イツキの横で、アキラが笑う。



「……お兄さん、だれ?」


 ――と、ローリエがイツキの方を見て首を傾げた。


「ああ、」


 アザレアがニコッと彼女に笑いかける。


「この人は、新しくワタクシたちの仲間になった人ですわ」


「そうそう!……おい、自己紹介しろよっ」


 アキラに横目で睨まれて、イツキはその小さな少女を見下ろす。


「……イツキだ」


 低い声でそれだけを言うイツキに、ローリエはキョトン、と目を瞬かせる。


「もー、馬鹿じゃないですの?なんて愛想のない人……」


 アザレアがしゃがんだままイツキを見上げる。その視線には非難の色が混ざっていた。


「……おいイツキ。もっとこう、笑うとかさぁ……ないの?」


「んな、無茶な」


 イツキが不機嫌に目を細める。しかし、


「イツキさんっていうのね!わかった、覚えたわ!」


 ローリエはイツキの無愛想な顔を見て無邪気に笑う。


「……」


「わぁ!ローリエは、なんて優しい子なのかしらっ」


「良かったなあイツキ。ローリエちゃんが究極にいい子で」


「……」


 アキラとアザレアに生暖かい目で見られて、イツキは無言でまた目を細めた。



<><><>



「アザレアちゃんが石炭でぇ、アキラくんは軽油ね!」


「いつもありがとっす!」


 小さなエプロンを着て、ローリエは注文をとっていく。亜麻色のおさげが、元気よく揺れた。

 日の当たる、窓際の四人がけのテーブル。周りを見れば、こうやって燃料補給しに来ている“兵器”がたくさんいた。


「んと……イツキさんは?」


 ローリエは背伸びをして、奥に座っているイツキを見る。彼は少し考えた後、


「コーヒー、もらえるか」


 ローリエを見てそう言った。


「?……コーヒーで、いいの?」


「ああ」


 イツキがうなずいたので、ローリエは不思議そうな顔をしながらも、小さなメモ用紙を持って走っていった。


「……ほんとにコーヒーでいいのですの?」


 イツキの向かいに座っているアザレアも、不思議そうな顔をする。


「ああ。別に、なにか食べる気分じゃない」


 イツキはそう答えて、窓の外を眺めた。




「おまたせしましたぁ!」


 しばらくして、ローリエが大きなお盆を運んでくる。体は小さいが、危なげないその仕草に、イツキは密かに感心した。


「アザレアちゃんの石炭と、」


 彼女はアザレアの前に、皿を置く。そこには一口大にカットされた石炭が盛ってある。


「アキラくんには、けーゆ!」


 アキラの前に置かれたのは、スープボウルだった。


「ありがとうなのですわ」


 アザレアが微笑むと、ローリエは笑った。


「イツキさんは、コーヒー……」


 と、ローリエはイツキの前にコーヒーカップを置いて、少し口ごもる。


「……どうかしたのか」


 イツキは横目で彼女を見て、低い声で尋ねる。ローリエは、はっと顔を上げてイツキを見た。


「あのっ……アザレアちゃんやアキラくんの仲間なのに――イツキさんは、人間なの?」


 思い切った、というように真剣な顔をするローリエ。イツキは表情を変えない。


「いや」


「じゃあ、“兵器”なの?」


「ああ」


 イツキの答えに、ローリエは訝しげな顔をする。


「ほんとに?“兵器”なのに、コーヒー飲むの?」


「……」


 ローリエの疑いの声に、イツキは一瞬躊躇うように黙ったが……


「……ん」


 マントの襟元を寛げて、首元の“本体”を顕わにする。


「!……わあっ、宝石!」


 ローリエが目を輝かせる。紅い、透明な石は、陽の光を受けて輝いた。


「それが……イツキさんの“本体”?」


「ああ」


 キラキラと光るタリスマンを、ローリエは嬉しそうに眺める。その様子に、イツキはわずかに表情を緩めた。


「俺は機械燃料じゃなくて、普通に人間の食事を摂る。……いつも、というわけではないが、覚えておいてもらえると助かる」


 イツキの言葉に、ローリエは目を丸くした後、


「うん!わかりましたっ」


 と、笑顔でうなずいた。

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