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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter2,『100年の眠りの先』
21/476

21,

 小さな窓から、眩しい陽の光が差し込んでくる。


 ――朝……か、


 腰掛けていた簡易ベッドから立ち上がって、窓の外を眺める。

 部屋の外からガヤガヤと話し声が聞こえた。


「行くか……」


 壁の掛け釘に掛けてあった黒いマントを手にとって、イツキはそう呟いた。



<><><>



「あ、おはようなのですわ〜」


「……おはよう」


 廊下は起き出してきた“兵器”たちで賑やかだった。イツキが部屋を出ると、右隣の部屋の前にアザレアが立っている。昨日と違って、鮮やかな緑色のドレスを着ている。


「アキラ、出てきませんの。……多分寝てるのですけれど、殿方のお部屋に断りもなく入るのは、ねぇ〜」


「なんでそんなとこばっか律儀なんだよ」


 イツキは呆れたように呟くと、ノックもせずにアキラの部屋を開ける。


「起きろ、駄剣だけん


「ん〜、誰が駄剣だ。クソ」


 寝起きのアキラは非常に機嫌が悪い。ボサボサの長い髪が、あちこちに向かってハネている。

 イツキはアキラに近づいていって、彼の体にかかっている布団を引っ剥がした。


「さっさと起きろ」


「っせぇ、起きてる」


 ベッドの上で体を起こして、アキラはイツキを上目遣いで睨む。


「くぁあ……。つかなんだよ、“駄剣”って。センス良すぎかよ」


「くっだらねーこと言ってる暇あったら、早く着替えろ」


 右手に持っていた布団を乱暴に投げ捨てて、イツキは踵を返した。



<><><>



「……よっし、起きた」


「遅いのですわ」


 ようやくまともに覚醒したアキラが笑う。その様子を見て、アザレアがフンっ!と鼻を鳴らした。



 細い廊下と階段をやり過ごせば、外はまごうことなき快晴だった。気持ちの良い春の風が吹く。


「まあ、飯食いに行きますか」


「……飯?」


 疑問符を浮かべたイツキを、アザレアが振り返る。


「燃料ですわ。ベース(ここ)の食堂で補給できますの」


 その言葉に、イツキは「ああ」とうなずく。


「あの修繕師リペアラーが、そんなようなこと言ってたな」


「んー、天音先生は人間ですから、人間の食べ物を食べられると思いますけど」


 アザレアは苦笑する。


「ガソリンに軽油、灯油に……ああ、石炭なんて、古風なのもいますわね。そういう、ワタクシたちが補給できるような燃料を置いてくれてますの」


 ちなみにワタクシは石炭ですわ。と彼女は笑う。


「人間の父娘が切り盛りしてる食堂ですの。……貴方は、なにを燃料にして動いていますの?」


 アザレアの言葉に、イツキは首を傾げる。


「燃料が必要だったことがない」


 予想外の返答だったのだろう。アザレアが驚いたように目を丸くする。


「そーいえば、お前がなにか燃料補給してる(食ってる)とこ、見たこと無いな」


「……強いて言えば、必要なのは機械燃料よりも人間の食料だな」


 イツキは視線を上に向けた。


「食べないと生きられない、ってほど必要なわけじゃないけど……水とか、カロリーとか?――現身からだの構造が人間とほぼ同じだから」


 人間より遥かに燃費はいいけどな。とイツキは呟く。


「体は人間とさして変わらない割に、睡眠も必要じゃない。疲れはするが、正直そんなに気にならない」


「それは……スゲーな」


 数百年越しに知った新事実に、アキラは唖然と呟いた。



 ――そんな話をしている間に。


「あ、着きましたわよ」



 《食堂 ひととき亭》



 アザレアが指差す先には、古い看板の下がったレンガ造りの建物があった。

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