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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter1,『為政者たちのプロローグ』
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2,

「顔を上げて……」



 穏やかな声だった。

 頭を下げていた五人が、一斉に顔を上げる。


 サスナと同い年の、まだ若い青年だった。長くあかい髪が、陽の光にきらめく。深い翠色の瞳が優しく五人を見渡していた。


「……我ら“元老院セナトス”。大元帥――的場まとば あかね様の命を受けて、馳せ参じました」


 ヨシュアが述べる口上に、的場はクスッと笑う。


「わざわざ手間をかけたね。……来てくれて、ありがとう」


「っ……、何をおっしゃるのです!」


 的場の言葉に、阿久津が目をぐわっと見開いて前のめりになる。


「愛しの大元帥様の為ならば、火の中水の中をゆくのが我らの務めっ!手間もクソも無いのです!」


 彼女の叫びに、瀬戸が大きくうなずく。他のメンバーも、アクションはしないが思っていることは一緒だ。


「ふふっ……はははっ」


 阿久津からの熱烈な“愛”を受けて、的場は声を上げて笑う。その底抜けた明るさも、彼を大元帥カリスマたらしめている所以ゆえんだ。


「ふふ……ありがとう、なるみ」


 名を呼ばれて、阿久津はまるで恋をする乙女のように頬を染める。ルイスがニヤリと笑った。



「それで閣下。……用件とは?」


 緩んだ空気の中で、サスナが的場を見つめる。セナトスたちは、再び表情を引き締め的場を見る。


「……君たち、セナトスに相談があって」


 的場も微笑みを消して、真剣な表情を見せる。翠の目に、鋭い光が宿った。


「君たちは、今の対アーティファクト戦線の状況を知っている?」


 デスクの脇に置かれた立体映像投影機ホログラムスクリーンに手をかけて、的場はセナトスたちに問いかける。


「……戦況は極めて悪化しています。先週の“兵器”からの報告によれば、『遺物境界線レリックボーダー』の五百キロ手前までアーティファクトの軍勢が迫っているとか」


 ヨシュアが硬い声で言う。この情報は、セナトスのメンバーであれば誰でも知っている。


 ――今さら、何故そんなことを?


 そんな疑問を、サスナの表情から感じ取ったのか、的場はまた少し笑う。しかしその目は真剣なままだった。


「そうだね。確かに、今の戦況は非常に悪い……」


 的場はそう言って投影機を起動させた。


「ついさっき、『マザー』が送ってくれた情報だ」


 その映像を見て――セナトスたちは一同、驚きに目を見張った。



 映し出されたのは、一般的に戦況報告に使用される一万分の一スケールの“首都”のモデルだ。

 “大戦”終戦直後につくられた、世界最大の人口を擁する巨大都市……。それが首都だった。


 中心にそびえ立つ『首都中枢塔』――俗に“ポリティクス・ツリー”と呼ばれている……を中心に、同心円状に街が広がっている。ポリティクス・ツリーの外周およそ1キロ圏内に広がる『中枢区ヌークリアス』と、ヌークリアスと壁によって仕切られ、そのさらに外側に広がる“壁外へきがい”と呼ばれる街並み。


 そしてさらにその外側をぐるりと一周するこの街の防衛の最前線――『遺物境界線レリックボーダー』。

 それらがホログラムとしてこの場に再現されている。


 しかし今特筆すべきはそこではなく、


「……アーティファクトの軍勢が、ボーダー外周三キロのところまでっ!?」


 阿久津が叫ぶ。ホログラムの街並みの外側に引かれた赤い線。その線は、明らかに先日の報告よりも街に近づいていた。


「『マザー』もついさっき分析が完了したみたいでね。しかし……見ての通り、戦況は最悪だ」


 少なくとも、“大戦”以降としては。と付け加えて、的場はホログラムを消した。その表情は、珍しく苦々しい。

 再びデスクに戻ってくると、彼はセナトスたちを見回した。


「このままでは首都は間違いなく陥落する。そうなればまた、“災厄”のときと同じような悲劇に見舞われるかもしない」


 そこで。と的場は薄く微笑んだ。その目は、どこか禍々しい影を落としている。サスナは、隣で瀬戸がはっと息を呑むのを感じた。



「……ポリティクス・ツリーここの格納庫にある、“精霊護符タリスマン”の封印を解こうと思う」


的場 茜 (24)

種族:人間

第5代大元帥。優しい性格で人々を惹きつけるカリスマ性を持っているが、容赦のない為政者の一面を持つ。セナトスのメンバーを大切にする良き上司。


ヨシュア・イチカワ (56)

種族:人間

セナトスの一人。メンバー最年長。先代大元帥、五十嵐の頃からセナトスに所属している。

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