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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Prequel< A>,『群青の過去』
191/476

191,

<><><>



「――冬馬くん。巫剣 絃夜はいる?」


「え? ……ええ、絃夜さんならいますけど……呼んできますね」



 ――戦線歴2108年 3月25日

 最後に天音に会いに来たときとは打って変わり、後ろにたくさんの首都中枢塔職員を引き連れたユーリが巫剣分家を訪れた。その物々しい様子に冬馬は不安げに眉を寄せる。

 廊下の先。冬馬はリビングを覗いた。


「絃夜さん、お客様が……」


 しかし、


「……絃夜、さん?」


 そこにいたはずの絃夜の姿は見当たらない。もう一度廊下に戻ってきょろきょろとあたりを見回すが、気配はなくしんと静まり返っている。


 次の瞬間、屋敷の裏手から激しい物音と怒鳴り声が聞こえてきて、冬馬は慌てて廊下を走った。


「何事ですか……っ!?」


 使用人通用口の外。その光景に冬馬は目を剥く。

 ――そこにいたのは、軍服を着た役人に取り押さえられ、それでもなお抜け出そうと藻掻いている絃夜だった。


「どういう、ことですか? なんで絃夜さんをっ」



「――彼には、国家反逆罪の嫌疑がかけられている」



 後ろから不意に、ぞっとするほど冷たい声が聞こえた。


「先輩……?」


 冬馬ははっとして振り返る。そこにはユーリが立っていて、地面に押さえつけられた絃夜を見下ろしていた。


「抵抗をやめろ。自分の立場を理解していないのか」


「……っ」


 ――この人は、誰だ……?


 蔑むような冷たい光を放つ蒼色の瞳。ナイフのような硬く鋭い声色。そこに立っているのは確かにユーリだが――冬馬の知っているユーリでは無かった。


「うるさいっ! なんの証拠があってこんな真似を……」


「ついさっき、大元帥様――いや、五十嵐 勇斗を国家反逆の罪で投獄した。お前、並びに巫剣分家の『高貴なる人々(アリストクラシー)』数人が、五十嵐と共謀して春苑との戦争を計画していることは――少し叩けば吐くだろうな」


 絃夜は唖然とユーリを見上げる。その蒼色の瞳に釘付けになる絃夜に――ユーリは薄く嘲笑った。


元老院(セナトス)を、随分と舐めておいでのようだ。……我々は大元帥の腰巾着ではない。“首都”の治世を守るためならば、たとえ大元帥であっても客観的証拠と法の名のもとにおいて罰するのみ。元老院は、為政者の首輪であり真の法の執行者だ。――それをわかっての所業か? 巫剣 絃夜」


「……“冷徹なる賢臣”――か」


 苦々しげに呟く絃夜を無視して、ユーリは役人たちを見やる。


「連れて行け。身柄はヨシュアの管理下に――彼ならうまくやる」


「「はい」」


 役人たちに連れられ去っていく絃夜の背中を見送って、ユーリは冬馬を振り返った。


「ごめんね、冬馬くん」


 ――そこにはもう、先程のような冷徹さは微塵も残されておらず、いつも通り穏やかに微笑むユーリがいた。


「騒がしくした上に……君のご両親にも、国家反逆罪がかけられている。だいぶ君に迷惑をかけてしまうな」


「いや……それは別に、先輩のせいじゃないし……」


 呆気にとられながらも冬馬は首を横に振る。その表情は驚きを隠せないまま固まってしまっていた。


「本当、なんですか? 春苑と戦争って……」


「ああ、くれぐれも内密に頼むよ。戦争は起こらないし、世間に公表するつもりはさらさら無いんだ」


 困ったな、ますます君を巻き込んでしまう。と、ユーリは困ったように笑う。その笑顔の禍々しさに、冬馬はとある『噂』を思い出した。


 ――“三賢臣”……


 今代の元老院には、大学園(アカデミー)秀学院の“優秀者”卒業生が三人いる。


 “静かなる賢臣”と呼ばれ、庶民から絶大な支持を得ていた御三家の一角であり巫剣家当主、巫剣 冬樹。

 “誇りかなる賢臣”と呼ばれ、『高貴なる人々(アリストクラシー)』を表立って率いてきたヨシュア・イチカワ。

 そして――その二人の裏で、貴族たちの不正を正し、そのあまりに淡々とした性格から“冷徹なる賢臣”と呼ばれた――ユーリ・アクタガワ。


 その片鱗を目の前にして、冬馬はそこに滲む狂気に震えた。

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