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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter2,『100年の眠りの先』
19/476

19,

 ――そこにいたのは、ゴツい両刃斧を担いだ男だった。


 ただでさえガタイがいいのに、その上から分厚い甲冑プレートアーマーを着ているため、岩か何かのような見た目をしている。

 白髪混じりの短い鳶色の髪に、薄い水色の瞳が映えている。見た目の年齢は四,五十歳くらいだろうか。


「なんだその腑抜けたツラはよ―っ!そんなんじゃ貴様ら、秒であの世逝きだぞ!」


「……あの子達、実戦経験は少ないものの、実際はかなり強いのですけどねぇ、」


 アザレアが肩をすくめる。


「でも、なにせ相手は人間ではなくアーティファクト(同族)。強さは互角か、それ以上が最低ラインですわ。おまけに、最近は強いのが多くて」


 困ったものですわ〜。彼女はそう言って、息を吸い込む。


「しょ〜ぐーん!ゲンジしょうぐーん!」


 アザレアの細い体から出たとは思えない、大声がその男を呼ぶ。ゲンジはこちらを振り返った。


「おおっ!“お嬢”じゃないか」


 アザレアを見た途端ゲンジは破顔して、走っていた“兵器”たちに休憩を言い渡す。一斉に“兵器”たちはパタリと倒れ伏した。



「精が出ますわね、将軍殿」


「やあ〜。お嬢は今宵も、麗しいなぁ」


 ガハハハっ。と笑うゲンジに、アザレアはホホホ〜……、と口元を隠す。

 イツキの隣で、アキラが肩をすくめた。


「どうしたんだいお嬢、こんなむさ苦しいとこまで。おまけにアキラと、……ん?」


 苦笑するアキラの隣に見慣れない人影を見つけ、ゲンジは首を傾げる。


「新しく“兵器”として補填された奴を連れてきたんっす」


 アキラに目配せされて、イツキはフードを取ってゲンジを見る。


「んん?……ああっ!」


 ゲンジはイツキの顔を見て、大声を上げる。



「貴様!『死神』か!?」



「……久しぶりだな、“おっさん”」


 驚愕で目を剥くゲンジに、イツキはなんでも無いように声をかける。ゲンジを“おっさん”と呼んだことで、周りの“兵器”たちに戦慄が走った。


「ほら将軍殿、この人が新しいメンバーの……、きゃあっ!?」


 しかし、アザレアが全部言い終わる前に――



『ガーンッ!!』



 ゲンジが、イツキに向かって自らの“本体”である両刃斧を振り下ろした。


「……」


 イツキは無言で、身を捻って斧を避ける。斧は大きな音を立てて、地面に突き刺さった。


「ちょ!?将軍っ」


 アキラはゲンジを止めようとするが……


「セイッ!」


 ゲンジは既に、ニ撃目を放っていた。


「……何の真似だ?」


 ニ撃目も後方に飛び退って避けながら、イツキは不機嫌に目を細めてゲンジを見る。


「久方ぶりに会ったんだ。まずは手合わせだろうが、よっ!」


「この、脳筋が……」


 ゲンジは二カッと歯を見せて笑った。イツキはひらりと地面に降り立ってため息をつく。


「おい、そこのお前、」


 イツキは近くに立っていた“兵器”の青年に声をかける。


「は、はいっ!」


木刀それ、寄越せ」


 その青年が持っている太い訓練用の木刀を指さして、イツキは言った。


「えは!?ど、どうぞ……」


 木刀を受け取る。ブンッ!と風切り音を立てて、イツキは木刀を一回振ると、そのままゲンジと向き合う。

ゲンジ(見た目は40〜50代。製造は第一次機械戦争中)


種族:アーティファクト(Ⅰ型)


巨大な両刃斧が本体。

かつて南方軍で活躍していたこともあり、イツキとも戦ったことがある。

現在では境界線基地ボーダー・ベースの“兵器”として戦い、『将軍』と呼ばれている。

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