19,
――そこにいたのは、ゴツい両刃斧を担いだ男だった。
ただでさえガタイがいいのに、その上から分厚い甲冑を着ているため、岩か何かのような見た目をしている。
白髪混じりの短い鳶色の髪に、薄い水色の瞳が映えている。見た目の年齢は四,五十歳くらいだろうか。
「なんだその腑抜けたツラはよ―っ!そんなんじゃ貴様ら、秒であの世逝きだぞ!」
「……あの子達、実戦経験は少ないものの、実際はかなり強いのですけどねぇ、」
アザレアが肩をすくめる。
「でも、なにせ相手は人間ではなくアーティファクト。強さは互角か、それ以上が最低ラインですわ。おまけに、最近は強いのが多くて」
困ったものですわ〜。彼女はそう言って、息を吸い込む。
「しょ〜ぐーん!ゲンジしょうぐーん!」
アザレアの細い体から出たとは思えない、大声がその男を呼ぶ。ゲンジはこちらを振り返った。
「おおっ!“お嬢”じゃないか」
アザレアを見た途端ゲンジは破顔して、走っていた“兵器”たちに休憩を言い渡す。一斉に“兵器”たちはパタリと倒れ伏した。
「精が出ますわね、将軍殿」
「やあ〜。お嬢は今宵も、麗しいなぁ」
ガハハハっ。と笑うゲンジに、アザレアはホホホ〜……、と口元を隠す。
イツキの隣で、アキラが肩をすくめた。
「どうしたんだいお嬢、こんなむさ苦しいとこまで。おまけにアキラと、……ん?」
苦笑するアキラの隣に見慣れない人影を見つけ、ゲンジは首を傾げる。
「新しく“兵器”として補填された奴を連れてきたんっす」
アキラに目配せされて、イツキはフードを取ってゲンジを見る。
「んん?……ああっ!」
ゲンジはイツキの顔を見て、大声を上げる。
「貴様!『死神』か!?」
「……久しぶりだな、“おっさん”」
驚愕で目を剥くゲンジに、イツキはなんでも無いように声をかける。ゲンジを“おっさん”と呼んだことで、周りの“兵器”たちに戦慄が走った。
「ほら将軍殿、この人が新しいメンバーの……、きゃあっ!?」
しかし、アザレアが全部言い終わる前に――
『ガーンッ!!』
ゲンジが、イツキに向かって自らの“本体”である両刃斧を振り下ろした。
「……」
イツキは無言で、身を捻って斧を避ける。斧は大きな音を立てて、地面に突き刺さった。
「ちょ!?将軍っ」
アキラはゲンジを止めようとするが……
「セイッ!」
ゲンジは既に、ニ撃目を放っていた。
「……何の真似だ?」
ニ撃目も後方に飛び退って避けながら、イツキは不機嫌に目を細めてゲンジを見る。
「久方ぶりに会ったんだ。まずは手合わせだろうが、よっ!」
「この、脳筋が……」
ゲンジは二カッと歯を見せて笑った。イツキはひらりと地面に降り立ってため息をつく。
「おい、そこのお前、」
イツキは近くに立っていた“兵器”の青年に声をかける。
「は、はいっ!」
「木刀、寄越せ」
その青年が持っている太い訓練用の木刀を指さして、イツキは言った。
「えは!?ど、どうぞ……」
木刀を受け取る。ブンッ!と風切り音を立てて、イツキは木刀を一回振ると、そのままゲンジと向き合う。
ゲンジ(見た目は40〜50代。製造は第一次機械戦争中)
種族:アーティファクト(Ⅰ型)
巨大な両刃斧が本体。
かつて南方軍で活躍していたこともあり、イツキとも戦ったことがある。
現在では境界線基地の“兵器”として戦い、『将軍』と呼ばれている。




