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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter2,『100年の眠りの先』
18/476

18,

「じゃあ……世話になった」


 フードを被って、イツキは天音を振り返る。


「何言ってるんですか?」


 天音の言葉に、イツキは驚いたように顔を上げる。


「“兵器”として働くなら、世話になるのはこれからですよ?……損傷(怪我)したら、早めにきてくださいね」


 真剣な顔をしてイツキを見上げる天音。彼はうなずく。


「ああ、そうだ」


 すると不意に天音は、何かを思い出したように呟く。



「っ!」


修繕リペアじゃなくても、()()()は来てもいいですからね?」


 天音は突然、ぐいっとイツキに近づいて、背伸びをして彼の顔を覗き込んだ。その顔はニッコリと笑っている。


「……なんでだ」


「ふふっ……決まってるじゃないですか、」


 天音はイツキの胸に手を当てる。


「まだ十分、現身を触ったり撫で回したり(研究)させて貰ってません」


「……キモ」


 甘い声で囁く天音に、イツキは思わず彼女の手を掴んで引っ剥がす。

 後ろで、アキラとアザレアが息を呑む音が聞こえたが……イツキはそれどころではない。


「なので、いつでもいらしてくださいね!」


 優しく微笑む天音の声は、そこ抜けて明るかった。


「……遠慮させてもらう」


 少なくとも、用事がないうちは絶対にここには来ない。イツキは固く心に誓った。



<><><>



 不満げな顔をする天音を置いて部屋を出ると、廊下にはランプの明かりが点っている。

 細長い窓の向こうには、星が瞬いていた。


「……先生の噂、マジだったんだ」


 ふと、アキラがイツキを見る。


「何が」


「天音先生が“精霊の加護(プロテクション)”を持ってるって話ですわ……。先生、貴方に触ってたではありませんか」


 アザレアの言葉に、イツキはうなずく。


「らしいな」


 そのまま、三人連れ立って細い廊下を歩き始める。




 ――境界線基地ボーダー・ベースとは、“首都”の一番外側を囲う巨大な壁、『遺物境界線レリックボーダー』の内部、あるいはその足元に設置された防衛拠点の総称だ。


「……今ここで働いている“兵器”は四十五名――ああ、イツキ(貴方)を含めるとすれば、四十六名ですか」


 アザレアはイツキの前を歩く。その金色の髪に、機械ランプの明かりが反射した。


「『人工遺物アーティファクト』というのは“大戦”終戦までに作られた、命を持った機械のことですが……ここで働いている“兵器”たちは、『第二次機械戦争』中、それも終盤で作られた子たちがほとんどなのですわ」


「しかも、量産型の『Ⅰ型』兵器がほとんどなんだよな〜」


 イツキの隣を歩くアキラが、グーッと伸びをした。


「たくさん作られるだけ作られて、戦闘経験が無い奴がほとんどでさ。俺とかアザレアとか、お前みたいな手練って、そう多くないんだ」



 階段を下りると、外へと続くアーチ状の出入り口があった。賑やかな声が聞こえる。


「……修練場、的な?」


 そこから見える光景に、イツキが呟く。アザレアが大きくうなずいた。



『おっっらぁーーー貴様らっ!!チンタラ動くんじゃねぇ、走れっっっっっっ!!』



 外に出ると、賑やかとは到底言えない罵声と、その罵声の主に蹴りを入れられる“兵器”たちがいた。


「……なんか凄いのがいる」


 イツキが顔色ひとつ変えずに呟く。アキラは口元を歪めた。


「あれが、ベース(ここ)の鬼将軍だ」

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