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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Prequel< A>,『群青の過去』
178/476

178,

「……く、くくっ……あっはっはっはっ!」


「……」


 突然、五十嵐は高らかに笑い始める。その様子を冬樹はただじっと見つめていた。大広間に、その笑い声だけが響く。


「あぁー、傑作じゃあないか、巫剣。“静かなる賢臣”なぞと呼ばれて崇められてきた貴様も……所詮は愚かな人間だったということか」


「……どういう、ことですか」


 冬樹の低い声は冷静をたもっているように見えて――実は僅かな緊張に強張っている。五十嵐はくつくつと笑ったまま机に置かれた小槌(ガベル)を叩いた。


『カーン……』


 乾いた甲高い音。空気が揺らいだように感じられた。


「巫剣 冬樹。――判決を言い渡す」


 愉悦に浸った瞳が冬樹を見下ろした。突然の五十嵐の宣言に、元老院(セナトス)たちは笑いを引っ込めてしんと静まり返る。ユーリとヨシュアは驚きに目を見張って顔を見合わせた。


「国家反逆罪自体は、せいぜい終身刑が妥当というものだろう。が、お前のこれ(・・)はあまりにも悪質極まりない。よって……」


 一瞬の間。セナトスたちは一様に息をひそめる。



「お前の処罰は、族誅(ぞくちゅう)だ」



「っ!?」


 ガシャンッ! と拘束具が激しく音を立てる。蜂の巣を殴りでもしたかのような騒がしさに大広間が包まれた。


「族、誅……だと?」


 ヨシュアが呆然と呟く。

 一家皆殺し。――この言葉が表しているのは、つまりそういうことだ。


「待てっ! 国家反逆罪は、連座制が適用される罪では……」


「はっはっはっは! だから他の罪ではなく、国家反逆罪を甘んじて受け入れたのか? くっ……考えが足りないぞ、巫剣」


 冬樹が滅多に見せない動揺した顔。しかし、五十嵐は可笑しそうに笑うだけだった。


「わしは大元帥だ。『極悪非道な大罪人をさばくために』、特例として連座制を適用した。……お前の言う通り、“首都”の平和が第一だ」


「……元から、このつもりだったのか」


 冬樹の険しい表情。ユーリが隣を見ると、ヨシュアはまた立ち上がっていた。今度ばかりはユーリも彼を引き止めるつもりはなく――ぎゃあぎゃあと騒がしい貴族たちの隙間を縫って、五十嵐に近づく。


「五十嵐様……僭越ながら申し上げます」


 口調は丁寧に。しかし、その声に滲む怒りをヨシュアは抑えきれない。


「ん? なんだ、イチカワ。申してみよ」


「――は。あくまでもここは裁判の場です。閣下一人での判決ではなく、元老院の議論をお待ちになったほうがよろしいかと」


 ユーリも深くうなずく。ユーリ、ヨシュア、そして冬樹は、今代のセナトスの中で唯一、大学園(アカデミー)の秀学院を“優秀者”として卒業した者たちだ。“三賢臣”と呼ばれ政治の実際を五十嵐以上に深く知っている彼らの言葉は重い。

 しかし、五十嵐はすっと目を細めた。


「わしに、逆らおうと。そういう心づもりか?」


「っ……」


「この状況を見て、わしがお前たちに言うとすれば――『明日は我が身』で、どうだ?」


 五十嵐はちらりと冬樹を横目で見下ろす。その意味は明白。ユーリとヨシュアは思わず口をつぐんだ。


「何度も言っておる、わしは大元帥だ。わしがより高貴な、より立場の上な人間だということがわからないのか? ――貴様らセナトスごときが、否定しようものなら……、」



「もういい。ユーリ、ヨシュア」



 イライラしたような五十嵐の言葉。その間に強引に割って入って、冬樹は二人を見た。


「もういいって、お前、」


「いい。君たちまで死んではなんともならない。庇ってる時間があったら、もう少し建設的に時間を使ってくれ」


 そこにいるのは、さっきまでの動揺した冬樹ではなく――いつもと全く変わらない、冷静さと自身に満ち溢れた姿だった。

 彼は五十嵐を睨め上げる。金の髪が揺れた。



「誰がなんと言おうと、僕はありもしない罪は認めない。罪があるのはお前だ、五十嵐。……殺されるというのなら、僕はお前の罪を今ここで吐き捨てるだけだ」

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