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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Prequel< A>,『群青の過去』
177/476

177,

 ――戦線歴2108年 3月4日



「これより、元老院裁判を始める!」


 高らかな口上。ニヤニヤと笑う貴族かぶれども。それらを一切無視して、ユーリはただ前だけを見つめ続けた。

 その蒼い視線の先。拘束具が取り付けられた背の高い椅子に、一人の男が座らされる。『高貴なる人々(アリストクラシー)』であることがひと目でわかる金髪碧眼。柔らかく光を跳ね返すその伸ばされた髪は後ろで一括りにまとめられていて、青色の瞳は鋭く裁判長席の男――五十嵐に向けられている。


「被告人、巫剣 冬樹。罪状は国家反逆罪……」


「そこにいる気分はどうだ? 巫剣」


 五十嵐はニヤリと頬を歪める。冬樹はすうっと目を細めた。


「早く始められては? 時間の無駄です」


「ふん! 相変わらずつまらぬ男だ」


 五十嵐は興が削がれたと言わんばかりに鼻を鳴らす。冬樹の挑発的な態度に、ユーリは不安を飲み込むので精一杯だった。


「被告人は、外部のアーティファクトの間諜として首都中枢塔に侵入。外部のアーティファクトに情報を渡していたとみられます」


「はあー、まったく……わしはあれほどお前を信用し、重用してやっていたというのに」


 白々しい芝居がかった仕草。ユーリには自分の中でふつふつと怒りが湧いてくるのがわかるが――動じない冬樹の姿を見て、かろうじて冷静さを保っていた。五十嵐は笑う。


「どうだ? もし、今罪を認めるのなら……刑を軽くしてやらんこともない。――ここで、国家反逆罪を認めるなら、な」


 含みのある五十嵐の言葉。ユーリは、その言葉の裏にある真実をとうに知っていた。

 それなのに、何もできない自分を歯痒く感じていた。


「……していない罪は認められません」


「何を言う! お前は自分の立場を理解していないのか、巫剣」


 五十嵐が捲し立てる。唾を飛ばし叫ぶその姿の醜さと、冬樹のしんと静まり返った様子がひどく対照的だった。


「僕は元老院(セナトス)です。“首都”の平和の為に命を賭す覚悟を持っている。そんな僕が外部のアーティファクトと通じていたと、本気でお思いですか? ……僕が希求するのは、“首都”の平和、ですよ」


 青い目には昏い光が灯っている。言外に滲むそれは、明らかに五十嵐を動揺させた。


 ――“首都”の……平和


 冬樹は知っているのだ。彼に平和を脅かしたと詰め寄る五十嵐が――実は一番、この都市を危険に晒そうと画策していることを。


「っ……! は、はは。口ばかり立つなぁ、巫剣よ」


 額に浮かぶ脂汗。五十嵐は立ち上がって、しかし汚らしく笑った。


「お前の刑罰など、とうに決まっておるわっ! よいか、元老院諸君。こやつは“首都”を危険に晒した上に、その罪を認めずにわしを嘲った!」


 貴族どもの笑い声が大きくなる。過去最大の規模を誇る五十嵐の元老院(セナトス)は、その大半が五十嵐に賄賂を渡しここまで上り詰めてきた『高貴なる人々(アリストクラシー)』ばかりだ。


「っ!」


 その様子にしびれを切らしたのか、ユーリの隣で勢いよく椅子を倒して立ち上がった男がいた。しかし、ユーリは彼がなにか言う前にその袖を下に引く。


「やめろ、ヨシュア」


「はぁ!? どうしてだ、ユーリ!」


 その男――ヨシュアは眦を釣り上げる。そんな二人を見て、五十嵐はニヤニヤとした笑いを深めた。


「どうした? イチカワ、アクタガワ」


「……僕たちがなにか言えば、不利になるのは冬樹だ。抑えろ」


「っ……」


 ユーリの囁きにギリッと歯ぎしりをして、ヨシュアは椅子を起こして座る。その様子を冬樹が遠くからじっと眺めていた。五十嵐は鼻で笑うと、冬樹に向き直る。


「では……お前は罪を認める気は無いのだな? 巫剣」


「――ええ」


 静かに凪いだ声。その声の反響が消えたその刹那――

 五十嵐は薄気味悪く口角を上げた。

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