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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter6,『6月25日』
171/476

171,

 予想はできていた。

 いくら天音とて、生まれつき修繕師(リペアラー)だったわけではない。両親を亡くした彼女を育て、その技術を手取り足取り教えた人物がいた、ということは今の彼女を見ていれば当たり前のことだ。


「義理の……父親」


「“養父”というよりかは、リペアの“師匠”というイメージが強かったです。……それでもまあ、あの人は自分のことを『お父様』と呼んで欲しかったみたいですけど」


 天音はどこか呆れたように呟くと、再び足を進める。雨は依然として強いままだ。


「アクタガワ家は“御三家”の一角。あの人――『養父(とう)さん』は本家の末息子でした。でも、反対を押し切って境界線基地(ボーダー・ベース)で修繕師になったせいで、実家から勘当されていたんです」


 話をする天音の瞳は蒼く凪いでいる。平民に少ない碧眼は、『高貴なる人々(アリストクラシー)』では当たり前のものであることを、イツキは今更思い出した。


「でも、家から縁を切られていようがなんだろうが元老院(セナトス)に指名されることはあります。選考基準に貴族も平民も関係ありませんから」


「そんな人間が、どうしてお前の養父に?」


 イツキの問いに、天音は息を吐き出す。


「父とは――歳が離れていたものの、親友だったと聞いています」


「――親友の娘を引き取った。ということか」


 イツキの呟きに天音はうなずく。


「私を引き取った後、元老院(セナトス)として父の代わりに五十嵐の計画を止めたんです。市民に情報公開を行い、五十嵐の権威は失墜しました。――でも、大元帥は前任者が死ぬまで代替わりできない決まりなんです。だから義父さんは五十嵐を投獄し、元老院のメンバーを総入れ替えして自分は身を引いた。それ以後、五十嵐が死に、的場さんが就任するまで大元帥が権力を持つことはなく……その空白期間のおよそ十年間、セナトスが政治の実権を握ってきたんです」


「それからは、ずっと修繕師を?」


「ええ」


 不意に強い風が天音の白銀の髪を巻き上げる。それを手で押さえて彼女はイツキを見上げた。


修繕(リペア)自体はセナトスをしていた時から研究をしていたみたいです。若い時実家から追い出されて、それからはずっとベースで暮らしていたので。本当におかしな人で……今、この世界で使われているリペアの技術は、ほぼほぼ義父さんが編み出したと言っても過言ではないんです。“首都”で初めて『指定修繕師スペシファイ・リペアラー』の称号を得たのも義父さんだったし。そのくらい、ずっと熱心にアーティファクトを救うことだけを考えていた」


 天音は何かを思い出したように苦笑する。その薄い笑みをイツキは見つめた。


「――そう、人間よりもアーティファクトを好く人でした。結局、何回言っても結婚もしなくて、アーティファクトのことを考えているときが一番幸せだ、みたいな顔をしていて。そんな人なのに……私のことを引き取って、修繕師として育ててくれたんです」


「なるほど。お前の変態っぷりは、養父譲りだったのか」


 イツキが納得したというように言う。不服そうに蒼色の目が細まった。


「私は、あそこまでではありません。義父さんは本当に変人だったんです……」



 ――気がつけば、『遺物境界線(レリックボーダー)』にだいぶ近いところまで歩いてきていた。町並みは消え、代わりに鮮やかに雨に濡れる緑地が広がっている。ボーダーぎりぎりまで続くこの辺り一帯の緑地は、かつて初代大元帥がボーダーやポリティクス・ツリーを建設する際に一緒に植樹を命じた場所だった。


「……墓石だらけだな」


 柔らかな芝生と所々に植えられた背の高い広葉樹。それらを埋め尽くすように黒い墓碑が淡々と並んでいる。


「“大戦”戦死者。“災厄”の被害者――その他、この“首都”で亡くなった人々の大半がここに埋葬されています」


 天音はそう言ってずんずん奥へと進んでいく。

 ボーダーのすぐ近く。木陰にひっそりと佇む墓石の前で彼女は立ち止まった。

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