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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter5,『機械長弓と記憶の欠片』
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162,

 わーっと歓声を上げる観客の隙間を縫って歩きながら、アザレアは笑った。


「あー! とーっても面白かったですわぁ、まさかこのワタクシがあそこまで追い詰められるなんて。次回に期待ですわね、シオン」


「う……く、悔しいかも」


 ほんのり眉を寄せるシオンの頭を、アザレアは手を上げて優しく撫でる。


「今まで、ローレンスくらいしかまともに相手してなかったのだけれど……強敵が増えてしまいましたわね〜」


「――強敵?」


 訝しげな表情をするシオン。アザレアの隣を歩いていたイツキが、サイスを持っているのとは逆の手でぱっとフードを払った。


「アザレアとやり合えるなら十二分に強いだろ、お前。――安心しろ、実戦でここまでのバケモノ(・・・・)を相手にすることはまず無いから」


「んん〜? バケモノとは誰のことかしらぁ」


 微笑みの影で口の端を引きつらせるアザレア。しかし、イツキは一切表情を変えないまま黒髪を掻き上げた。


「馬鹿力で血の気の多い骨董遺物(アンティーク)とか――バケモノ以外のなんでもないな」


「っ……!? 一言も二言も多いのは、どちらなのかしらっ!」


 声を荒らげるアザレアに、イツキはしらーっとしている。

 客席の一番後ろにはアキラたちが待っていた。


「おつかれ! 頑張ったなぁ、シオン」


 アキラが立ち上がってグシャグシャと頭を撫でると、シオンは嬉しそうに目を細める。周りを見れば、今まで遠距離武器たちにやいのやいの言っていた観客の“兵器”たちが、もう既に訓練を始めていた。


「――あいつら血気盛んすぎるだろ」


「ガーッハッハッハ! 俺も交ざってくるぞっ!」


 呆れたローレンスの声に、ゲンジは豪快に笑って飛び出していく。その後ろ姿を眺めて、アザレアはため息をついた。


「馬鹿ね」


「ああまったくだ、年甲斐もなく。――それはそうと、お疲れ」


 うなずいたローレンスの言葉に、アザレアは微笑む。


「あら、健闘していたのはそちらもでしてよ? だいぶ腕が上がったじゃないの、ローレンス」


「――上から目線が解せないが、褒め言葉だととっておく」


 ムッとした表情に、アザレアはニヤリと口元を歪める。背丈の関係で下から覗き込むような格好になるのが、かえってその表情を悪質なものに見せた。


「年上はワタクシだし、勝ったのもワタクシですわよ〜?」


「っ。痛いところを――」


 ぐっと表情を歪めるローレンスに、アザレアは声を上げて笑うとシオンとアキラをちらりと見る。

 持ち前のシスコンでシオンを褒めちぎるアキラを、イツキがうざったそうに眺めている。当のシオンは、“兄”に褒められて素直に嬉しそうだ。


「――いい弓ですわぁ。腕前も集中力も、実戦で十分に役に立つ。正直、負けるかと思いましたもの」


「やっぱりあれは、賭けだったのか」


 最後のアザレアがシオンの前に飛び出したあの行動をローレンスはそう評する。アザレアは眉を下げた。


「イツキがいけませんでしたわぁ、引っ掻き回してくれるんですもの。アレさえなければ、シオンが勝ってたかもしれないのに」


「そんなの、真夜中までかかるだろ試合が……。それに、この試合の勝ち負けが重要じゃないことは、君が一番良く知っている」


 そうだろ? と片眉を上げるローレンスに、アザレアは一瞬黙り込んで――


「そう……そう、でしたわね」


 ほんの僅かに唇の端を歪めて顔を上げた。


「勝ち負けなんか、これっぽっちも関係ない……死ぬか生きるか、死なせるか生かせるかのそれだけですもの」


「……」


 ローレンスはその言葉の裏側に込められた感情に黙り込む。アザレアはふわりと笑うと、アキラたちに近づいていった。


「さあさ、《ひととき亭》にご飯でも食べに行きましょ?」


 楽しげに笑う彼女の横顔を、ローレンスはじっと見つめていた。

第5章はこれで完結になります。6章は天音の過去に続く物語。引き続き応援よろしくおねがいします!

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