表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter2,『100年の眠りの先』
16/476

16,

「……“急患”とは、アザレアさんのことですか?」


 天音の問いに、アザレアと呼ばれたその女は、コクリとうなずく。


現身うつしみの右足が取れましたの。きっと、どこかに短針を落としたのですわ」


 よくよく見てみると、長いスカートの下から出ているヒールの高い靴が、片方無いのがわかる。

 アザレアはため息をついて、アキラの方をキッと睨む。


「ここまでアキラ(この人)に運んでもらいましたの。……それなのにこの人、突然ワタクシを放り出すんだものっ」


「や、ごめんて……。ドアを人にぶつけちゃった上に、それが百年行方不明だった“戦友”だったんだから……」


 アキラの言葉に、アザレアは不満そうにイツキの方を見る。


「!――あら、」


 しかしその紫の瞳は、次の瞬間大きく見開かれた。


「北方軍の『死神』じゃあありませんの。てっきり、もう壊れた(死んだ)ものと思っていましたわ」


「……勝手に殺すな」


 イツキはアザレアを睨む。彼女はククッと笑った。


「近くで見ると……思ったよりも、イイ男なのですね。……“精霊の加護(プロテクション)”のせいで触れないのが残念ですわ、「……はいはい、皆さん」


 アザレアがイツキに色目を使うのもつかの間。天音がパンパンと両手を打つ。


「お話は中でお願いできますか?……アザレアさんも、早く足を見せてください」


「あ、はあ〜い」


 天音に言われて、アザレアはイツキとアキラの傍を通り過ぎて部屋に入る。残された2人も後に続いた。



「――また、派手にやりましたね」


 全員がローテーブルのソファーに腰を下ろしたところで、アザレアの隣で彼女の足を見た天音が呟く。

 その足は、膝の少し上から先が、文字通り“失くなって”いた。


「ん〜。やっぱり、短針が無いのですわ〜」


 アザレアが手に持っているのは、古風な真鍮製の懐中時計だった。それをマジマジと見つめて、彼女はため息をつく。


「……それが、あんたの“本体”か?」


 ローテーブルを挟んで、天音の向かい側に座っているイツキが、アザレアの手元を眺めて尋ねる。


「そうですわ。ワタクシは骨董遺物アンティーク。第一次機械戦争中製造のアーティファクトですの」


 自分の本体を天音に渡して、アザレアは首を傾げる。


「どうかしら……直る?」


「ええ。前にも短針、なくしたことあるでしょう?」


 天音は呆れたようにアザレアを見る。


「あのときと同じようにスペアをつけるので……少し、待っててください」


 それだけ言うと、彼女は壁際に置かれた、マホガニーのデスクへ歩いていく。



 そんな天音の後ろ姿を一瞥して、アザレアはイツキと、その隣に座っているアキラに向き直る。


「びっくりしましたわ。まさかこんなところで、あの有名な『死神』に会うことになるなんて」


 アザレアが大きな目をキラキラとさせながら言う。イツキは首を傾げた。


「別に……有名ってことは無いだろ」


「んまあ、とんでもない。ワタクシのいた南方軍では、貴方のことはしょっちゅう噂になっていましたもの」


 フフッと笑って、アザレアは目を細める。


「ほんっと。百年も何をしていらっしゃったの?」


「それ!俺も気になるっ」


 アザレアとアキラの質問に、イツキは渋々、プロテクションの影響でポリティクス・ツリーに封印されていたことを話す。アキラが顔をしかめた。


「相変わらず……政府の奴らは理不尽だなぁ」


「まあ、仕方ないな」


 イツキはどうでも良さそうに吐き捨てる。


「こんな能力、いらないだろ」


「でも、北方軍で一番の戦果を挙げてたのはお前だっただろ!?」


「……戦争してれば、な」


 紅い目を細めるイツキ。その表情には、諦めの色が濃く映っていた。

 アキラが悔しそうに表情を歪める。アザレアもその境遇に同情したのか、眉を寄せた。


「仕方がないし……たかだか百年で出てこれたんだから、いいだろ」


 イツキはそう呟いて、強引に話を切り上げた。

アザレア (製造は第一次機械戦争中)


種族:アーティファクト(Ⅱ型)


本体は真鍮製の懐中時計。アキラとともに先行部隊に所属しているが、元は南方軍方のアーティファクト。

口調は丁寧だが、皮肉屋なところがある。根は優しい性格。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ