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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter5,『機械長弓と記憶の欠片』
159/476

159,

<><><>



 ――コツは、とにかく相手をよく見ること。


「わあっ!?」


「っし……」


 焦ったような叫び声に紛れて、シオンは姿勢を低く走り去る。


「あと……三人かな」


 静かに滑り込んだ障害物の影で、シオンは矢をつがえると戦場(フィールド)を見回した。



『試合終了まで、残り十分!』


 修練場を見渡す階段の上から、ゲンジがアナウンスを入れる。その足元で、座り込んだアキラは手を握り合わせた。


「頑張れーっ、シオン」


「……暑苦しいな」


 同じように隣に座るイツキが辟易とした声を上げる。少しジメッとした薄曇りの空の下行われていたのは、月に一度の遠距離武器たちの訓練試合だった。


「残り三人か。健闘してるぞ、お前の妹」


「ったりめーだ! 俺の兄弟の中で、俺の次に強いからなっ」


 一番は勿論俺だ。と鼻息荒く答えるアキラ。イツキはため息をついてフィールドに目を戻す。


「ナルシストが……。まあ、アレ(・・)をかいくぐってるのは流石というかなんというか」


 数段階段を降りた先は、もう既に障害物が設置された試合空間になっている。イツキから見て数人分、観客の頭を挟んだところで――またひとり、脱落者が出た。



「あはははっ! ――勝てると思ったら、大間違いなのですわ〜」



 特殊な弾や矢じりを使っているため、当たっても死にはしない。しかし、誰が誰からの攻撃を被弾したかを確認するため弾に仕込まれたインクが、飛び散って脱落者の服を紫色に染め上げていた。


「はあ……はあ、勝てるかっ!」


 苦しそうに息をついて膝をついているのはローレンスだった。イツキはそれを見て頬杖をつく。


「アレは勝てない」


「ずーっと追いかけ回されてたもんなぁ、ローレン。――俺、アザレアに出会ってから自分が遠距離武器じゃ無くて本当に良かったと思ってる」


 アキラも同調するように大きくうなずく。

 『インクで汚れてもいい格好で参加しろ』と事前に通達が来ているにも関わらず、いつもと変わらないひらひらしたドレスを纏ったアザレア。その自信は実力にも裏打ちされていて、今までの訓練試合で彼女のドレスを汚せた者はひとりもいない。


「敵はあとひとり。どこにいるのかしら、出てきなさ〜い」


 とにかく障害物を活用する立ち回りが定石であるこの試合で、ドレスをはためかせ隠れもせずに敵を追い立てる。ふわふわとした微笑みと高い声は、観客にまで恐怖を植え付けるようなものだった。



「……疲れた」


「お疲れー、ローレン」


 息を切らしながらアキラの隣にローレンスが腰を下ろす。汚れたシャツの首元を開けて、深く息をついた。


「随分粘ってたな。アザレアが障害物の上を走って追いかけ始めた辺りで、流石にもう駄目かと思ったが」


「なんだよアレ……しつこすぎる、いつもいつも……」


 イツキの言葉に、ローレンスは顔をしかめる。

 だいたい最後に残るのは、アザレアとローレンス。試合時間残り十五分くらいになると、たとえ他にどれだけ敵がいようとアザレアはローレンスだけを執拗に狙うようになる。


「『ローレンス、めっちゃ邪魔ですわ〜』みたいなことを前言ってたぞ? あいつ。良かったな、アザレアがそう言うってことは、ローレンは強いってことだ!」


 ローレンスの背中をバシバシと叩くアキラ。


「いや……嬉しくない。そんなの」


 手で顔を覆ってローレンスは呻く。イツキは、相変わらずぼーっとフィールドを眺めていた。


「あと十分。決着がつかないとどうなるんだ?」


「延長戦になって、とにかくどっちかが被弾するまで続く。ただ――今まで一回も、そこまで行ったことはないな。アザレアのことだから、もう終わるぞ」


 ローレンスの答えに、イツキはうなずいて伸びをする。

 しかし――


 試合終了時間になっても、両者が被弾することは無かった。

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