153,
シオンは黙ったまま天音の言葉を聞いていた。静かに息を吐き出す。
「先生は、優しいんだな。人間が造った――いや、造ってもらった身だ。人間のために使うのは当然のこと」
天音を見つめて、シオンは微笑む。
「でも、嬉しい。そうやって言ってもらえるのは、嬉しいな。――いいなぁ、“兵器”は。羨ましい、いつもそばにこんなふうに労ってくれる人がいて」
ますます“兵器”になりたくなった。
朗らかに笑うシオン。その表情に、天音も薄く微笑んで――しかし、すぐに不思議そうな表情を浮かべる。
「そういえば、ずっと気になっていたのですが……」
「どうした?」
片眉を上げるシオンに、天音は手に持っていた彼女の“本体”を置くと、彼女と向き合う。
「あなたは……どうして“兵器”になりたいのですか?」
「……」
天音の問いに、シオンは黙り込んでしまう。手に持っていた工具を棚に戻して、天音は静かに首を振った。
「どうしても話させたいとか、そういうわけでは無いんです。言いたくないことがあるのは、人間だってアーティファクトだって変わらないでしょうし……」
「いいや、わかってる。あたしだって、別に言いたくないわけじゃ無いんだ。ただ――」
シオンは困ったように笑って、口ごもる。暫く舞い降りた沈黙の中、天音はじっとその言葉の続きを待っていた。
「……思い出せないんだ。どうして、あたしがこんなにも“兵器”に心惹かれるのか」
「え?」
――やがて、ぽつりと呟かれたシオンの言葉に、天音ははっと顔を上げる。シオンは指先で頬を掻きながら、言葉を探しているようだった。
「なんというか……ところどころ記憶が無いんだ。欠落っていうんだっけか? 製作者のこととか、アキにいのこととかはどうにか覚えてるのに、“大戦”中の戦いのこととかダルグでのこととか……とぎれとぎれにしか覚えてない事がたくさんあって、はっきりしない」
朝、目が覚める度に何かを思い出せなくなっている。そんな事が、特にダルグで護衛任務をしているときによく起こっていた。どうしてそんな事が起こるのか、シオンには全く心当たりも自覚もない。
「多分、抜け落ちてしまった記憶の中に“兵器”に関してのなにかがあるんだと思う。だから、どうして“兵器”になりたいのかって聞かれても……」
シオンは苦笑しながら目線を上げて――思わず目を丸くする。
「なんで――それを先に言ってくれなかったんですか?」
――そこには、シオンを睨みつけて剣呑な声を上げる天音がいた。組んだ腕を、細い人差し指がイライラと叩いている。
「傷よりも先に、そのことについて話してくれないと!」
「っ!? す、すまない……」
よくわからないが、天音が怒っていることに気づいたシオンは、咄嗟に謝罪を口にする。天音はそんな彼女に、はっと口元に手を当てると――バツが悪そうに目をそらした。
「すみません、つい……。あなたは多分、悪くないです。私が気づくべきでした。あなたはアキラさんの同型機なんだから……」
「え? それは、どういう」
ぶつぶつと呟く天音に、シオンは首を傾げる。天音は静かに顔をあげると、じっと彼女を見つめた。
「アキラさんも、そうなんです」
「……!?」
シオンは目を丸くする。天音の言葉がさしていることは明確だった。
「あなたと同じように――あのひとにも、記憶の欠落が起きているんです」




