15,
小さな窓枠に切り取られた空が、藍色に染まってゆく。
立ち上がってマントをつけるイツキを、天音は振り返る。
「どこか、お出かけですか?」
「……いや、出かけるっていうか、」
イツキは肩をすくめてみせた。
「“兵器”として配備も何も、何の指示も来てないからな……。とりあえず、ベース内歩きまわってみる」
手袋をはめる手元を見て、天音は納得したように言う。
「そうは言っても、終戦からはまだ百年くらいしか経ってないし……首都には現存する“兵器”の殆どが集まっていますから、知り合いくらい見つかるかもしれませんね」
天音の言葉にうなずいて、イツキは入り口に近づく。
「それじゃあ……、」
彼がドアノブに手をかけた、その瞬間、
「「先生!!急患〜!」」
誰かが向かい側から、勢いよくドアを開けた。
『ガンッ!』
「いっ……」
大きな音とともに、イツキがしゃがみ込む。突然開いたドアにぶつかったのは……言うまでもない。
「わあっ!すんませんっ」
ドアを開けたのは、“兵器”の男だった。……オレンジ色の長い髪が、慌てたように揺れる。
「あー……痛い音ですね。――ベルを鳴らしてから入るようにと、あれほど言ったはずですが」
内開きなんですから。と、イツキを気の毒そうに一瞥して、天音は入ってきた男を不機嫌に見つめる。
「ほんっと、すんません……。あの、大丈夫っすか――、て、え?」
その人物は、焦りながらもしゃがみ込んだイツキを覗き込み……、その直後、目を丸くする。
「え……、い、イツキ?」
「その声……やっぱ、アキラか」
イツキは顔をあげると、その男――アキラを横目で見上げる。
アキラは驚きのあまり、口をパクパクと動かすだけで、声を発することが出来ないようだ。
「知り合いでしたか」
立ち上がるイツキと、棒立ちになったアキラを見て、天音は尋ねる。
「……“大戦”当時、北方軍の同じ組織にいた。戦場でもよく、一緒に行動してたから……、」
「な……なんでお前、こんなとこにっ!?」
――と、ようやく動けるようになったアキラが、イツキに詰め寄る。
「急に、いなくなったと思ってたら……。お前、百年も何してたんだよっ!」
「……封印されてた」
冷静なイツキの言葉に、アキラは目を剥く。
「はあっ!?おまっ……俺めっちゃ心配してたんだぞ!」
声を荒らげるアキラに対して、イツキの反応は薄い。そんな彼に、アキラは更に目を怒らせる。
「ったく!だいたいお前な――、」
「ちょっと!今そこで、何が起こってるんですの?」
しかし、アキラが全てを言い終わる前に、開いたままのドアの向こうからもうひとりの声が聞こえた。
ドアの陰から顔をのぞかせたのは、イツキやアキラとそう変わらない年齢に見える女だった。
――縦に巻かれた長い金髪に、アメシストのような紫の瞳。コルセットで締められた中世風のドレスを着たその様子は、“お嬢様”と呼ぶに相応しい様相だった。
アキラ (見た目はイツキと同い年。製造は第二次機械戦争中)
種族:アーティファクト(Ⅰ型)
大振りの長剣を本体に持つ“兵器”の青年。
気さくな性格で、イツキとは第二次機械戦争中共に北方軍で戦った戦友。現在は境界線基地で先行部隊として戦っている。