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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter5,『機械長弓と記憶の欠片』
149/476

149,

 ローレンスが無線機を操作している横で、にわかにロビーが騒がしくなる。


「なんだ……?」


 手を止めてローレンスが顔を上げる。アキラとシオンも彼の視線を辿ると、三人のもとに近づいてくる人影があった。


「今戻った」


 そこにいたのは、珍しくマントのフードを外したイツキだった。それだけだったら、周りが騒がしくなることは無いのだが……


「ん〜? お前、それって先生……だよな?」


「そうだ」


 アキラの問いに真顔で答えたイツキは――何故か肩に人間を担ぎ上げていた。藍色のチュニックの裾からデニムのショートパンツが覗いていて、さらにそこから伸びたタイツに包まれた足を、彼の片腕が押さえている。担がれた人間の上半身は、イツキの体の向こう側にいってしまっていて見えない。


「おい、大丈夫なのか? 何かあったわけじゃないだろうな……」


 ローレンスは唖然と呟く。イツキは一切表情を崩さずに答えた。


「そこの廊下に落ちてたのを拾った。寝てる」


 シオンはどうしても気になって、イツキの後ろ側に回り込むと顔を覗き込む。だらーんと下がった腕と、目をみはるような白銀の長髪。その隙間から見えたのは、意外にも幼気な少女の寝顔だった。


「なるほど……つまり、自室の布団じゃないところで寝落ちてたのは、俺だけじゃなかったってことだな」


 アキラは納得したようにうなずく。イツキは胡乱な目をした。


「お前もなのか。ったく、どいつもこいつも……」


「いや、だからって担いでくるな。先生は物じゃないんだぞ」


 ローレンスは呆れたように額に手を当てると、イツキを見上げる。


「せめて起こして連れてくるとかさ……」


「起こして起きたら、こうはなってないよな」


 イツキは平坦な声でそう言って、少女の体を肩から下ろす。ぐらりと小さな頭がかしいだが、それを気にすることもなく――イツキは彼女の手首を掴むと、なんとそのまま目の前にぶら下げた。


「馬鹿っ! 先生の肩が外れるっ」


「これが、平気なんだよな意外に」


 ローレンスは焦った声を上げたが、その少女は穏やかな寝息を立てたまま、だらーんと伸びている。一向に起きる気配はない。


「……なんだこれ。猫だってこうはならないだろ?」


「これが人間であるということに、俺は今ものすごく驚いている。――肩関節どうなってるんだろうな」


 シオンの呟きに、イツキは驚いていると口では言うものの、全く表情を変えないまま少女を揺すった。


「おい、起きろ。いつまで寝ているつもりだ」


「……んん」


 揺すられたのには気づいたのか、少女は小さな呻き声をあげる。イツキはそのまま、彼女をさらに持ち上げた。


「ん〜」


「どこまで伸びるんだ、こいつ」


 にゅーっと、さらに伸びる少女の体を、イツキはもはや気味悪げに眺める。


「すげーやらかい」


「ええ……なんで、ええ……」


 アキラもローレンスも、勿論シオンも、その様子をただ呆然と眺めた。


「起きろ天音。仕事だ」


「――し、ごと」


 『仕事』の文字に、天音はようやく薄く目を開けた。蒼い瞳がぼんやりとイツキを見返して、二、三回瞬きをしたところでようやく本格的に目が覚める。


「あれ、イツキ? 私……ロビーに向かっていて、」


「……まさかその途中で寝落ちたのか?」


 とんでもないところで寝落ちていること。そして、イツキにぶら下げられていることを一切気にしていないこと。あまりに奇妙な天音に、イツキはゆっくりと彼女を地面に下ろす。


「先生。――寝るときはちゃんとベッドに行きましょう?」


「ね……てましたか? 私」


「本気ですか……?」


 コテンと首を傾げる天音に、ローレンスは眉間に手を当てる。天音はまだ眠そうに瞬きを繰り返した。

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