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「つーか、今気づいたんだけど……お前、怪我してるよな?」
「怪我? ああ、これのこと?」
シオンは右肩を見せる。剣が貫いた大きな穴に、アキラは顔をしかめた。
「いつものことだから平気だよ。布でも巻いて、落ちないようにしとけばいいって」
「いや、ちゃんと直してもらえって。それで千切れでもしたら洒落になんないんだから」
アキラはシオンを睨みつける。しかし、シオンはその言葉に首を傾げた。
「え……だって、直してもらいようがないじゃん」
ダルグでは、アーティファクトの修理なんてできない。政府直轄の修繕師だっているし、材料が無いわけでもないが……
「ダルグで一番の修繕師だって、こんな損傷は直せないよ? この前やっちゃったおなかの損傷も、見せたら匙を投げられちゃったし」
訝しげに言うシオンに、アキラは驚いたように目を丸くしたあと、ため息をつく。
「そうか……先生がおかしいのか……」
「?」
よくわからなそうな表情をするシオンに、アキラはどう説明したものかと悩む。
ちょうどその時、
「……被害状況はこれで全部だな? そろそろ全員撤退しよう」
ボーダーに空いたアーチ状の入り口の向こう側から声が聞こえた。覗き込んでみると、天井の高い大きな部屋になっていて、その中央に沢山の“兵器”たちが集まっている。
「お、いたいた」
その中央、資料を睨んで他の人員に指示を出している、燕尾服を着た男を見て、アキラは中に入っていく。シオンも後に続いた。
「じゃあこの通りに。――やっと終われる」
「おつかれ〜、ローレン」
ひらひらと手を振りながら近づいてくるアキラに、その男は顔を上げる。
「ん? ああ、アキラか。アザレアから連絡が来たぞ、お前宿直中に寝てたらしいな」
「げっ!? くっそー、アザレアめ……もう勘弁してって、アザレアにこってり絞られたからさぁ」
情けない声を上げるアキラに、ローレンスは鼻を鳴らしてみせた。
「十分想像できる。アザレアのことだから、どうせ力技だったんだろう? ――いいよ、今回は僕からは何も言わない」
よりによって、アザレアに見つかるとはな。と、むしろ同情するようにため息をつくローレンスに、アキラはヘラヘラと笑って手を合わせる。
「マジでありがとう! お前は神なのか!? ローレンーっ」
「はいはい。それで? なにか用だったんだろう」
うっとうしそうに目を細めるローレンス。アキラはシオンを振り返った。
「……そちらの方は?」
「ダルグから“兵器”志望で来たアーティファクトで……一応、俺の“妹”」
「シオンという。ダルグの地区防衛をしていた」
アキラとシオンは今までのことをかいつまんで説明する。ローレンスは最後まで聞いた後に、シオンを見た。
「なるほど。“兵器”は今、尋常じゃない人手不足なんだ。ダルグ地区防衛――それも第一管理区ともなれば、かなり優秀なんだな。もうひとり、ここの責任者がいるから確認してみるが、志願理由はどうであれ、僕は歓迎するよ」
柔らかく笑って言うローレンスに、シオンはほっとしたように息をついた。
「ありがとう。精一杯頑張る」
嬉しそうに表情をほころばせるシオンに、アキラは破顔する。
「俺の妹……かわいいだろ」
「おお。キモいな、シスコン。でろっでろだぞ、顔」
表情を失ったローレンスは、辛辣な言葉をアキラにぶつける。
「ひっど! ローレン、お前……」
「事実だ。そんなことよりも、」
ショックで言葉を失うアキラを無視して、ローレンスは再びシオンに向き直る。
「腕の怪我、早く直してもらったほうがいい。ここの修繕師の先生は腕がいいから、すぐに直してもらえる。――今なら部屋にいるか? 連絡してみる」
そう言って、ローレンスは近くに置いてあった大きな無線機に手を伸ばした。