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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter5,『機械長弓と記憶の欠片』
146/476

146,

 仄暗い明かりが、不意に一段強いものになる。街灯のような背の高い照明器具が目の前に現れて、その先に堅牢な鉄扉が見えた。


「着きましたわ、ここが――って、何してるんですの……」


 何かに気づいたようなアザレアの言葉に、シオンは鉄扉を見て――その前にうずくまっている人影を見つけた。


「何してるんですの?」


 その人物の前に歩み寄って、アザレアは高く腕を組む。シオンはその後ろから、おずおずとその人物を覗き込む。

 抱え込んだ両膝に頭を乗せて顔を伏せたその人物は、鮮やかなオレンジ色の髪が特徴的だ。頭の後ろでひとくくりにしたその長い髪に、シオンは見覚えがあった。


 ――あれ? この人……


「何してるのかって、聞いてるのですが」


 アザレアはイライラと声を大きくする。すると――


「スー、スー……」


 その人物から、非常に気持ちのよさそうな寝息が聞こえてきた。


「……ね、てる? こんなところで?」


 シオンは思わず、奇妙なものを見る表情でその人物を眺める。するとアザレアは無言のまま、どこからともなく大きな扇子を取り出した。

 右手にしっかりと握ると、それを大きく振りかぶる。


『バシーンッ!!』


「なっ!? いってーっ!」


 頭を叩く鋭い音とともに、寝ていた人物は飛び起きる。まだ寝ぼけた金色の瞳が、アザレアを見た。


「おはよう、ございますわぁ〜」


 アザレアはにこやかにその人物を睨みつける。目も声も笑っていない。その人物は、みるみるうちに顔色を青くすると、ぎこちなく笑う。


「あ……お、おはよー、アザレ……」


『ダーンッ!』


 まだ何も言い終わらないうちに、アザレアはハイヒールを履いた足を高く上げ、


「っ……」


 その人物の耳のすぐ横、鉄扉を勢いよく蹴りつけた。ひらりと捲れ上がる長いスカートと、そこから覗く肉付きの良い太もも。頑丈な鉄扉はびくともしないが、細いヒールがけたたましい音をたてて突き刺さる。その人物は唇の端をビクビクと痙攣させた。

 アザレアは足をそのままに、とびきり華やかな笑顔を浮かべる。パシパシと、扇子を手に打ち付ける音が響く。


「――いい度胸してますわねぇ、宿直中に爆睡するなんて。とーっても寛容で、死ぬほど心優しいワタクシでなければ……このヒールは今頃、貴方の顔面のド真ん中を抉っていましたわぁ……」


「かっ、寛大なアザレア様の御心に……心より感謝申し上げます。――申し訳ありませんでしたっ!」


 その男は、“平伏”という言葉がぴったりな、鮮やかな土下座を披露する。アザレアは大きなため息をついて、足を下ろした。


「チッ! ったく……あらら、失礼。バカも休み休みやってくれるかしら? アキラ」


「舌打ち――今、素が出て……ごめん、なんでも無い。ごめん、ごめんって!」


 バシバシと扇子で叩かれ、アキラは素早く飛び退ると降参するように両手を上げる。


「いや、マジでごめん。どうしても眠い上にひとりだったから……」


 そう言ってにへらと笑うアキラに、アザレアは諦めが滲むため息をつく。


「まったく……反省の色が見えませんわね」


「今度からは気をつけるって!」


 爽やかな笑顔を浮かべながらうなずくアキラは、アザレアを見つめて首を傾げる。


「ところで、さっきの戦闘はどうなったわけ? イツキも飛び出てったけど」


「綺麗サッパリ片付けましたわぁ、あんなザコ。――そんなことはどうだっていいんですの。“兵器”になりたいって、わざわざダルグからいらしたアーティファクトのお嬢さんがいますの。通してくださる?」


 アザレアはそう言って、シオンを振り返る。その目線につられて、アキラはシオンを見て――目を丸くした。


「んん? あれ、お前……」


「――やっぱり、”アキにい”だよな」


 驚きを持って見つめる金色の瞳を見返して、シオンは呟く。その言葉に、アキラは口元を押さえた。

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