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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter5,『機械長弓と記憶の欠片』
145/476

145,

「どうしましたの?」


 アザレアはシオンを振り返って不思議そうな表情を浮かべる。


「あの……その」


 シオンはどう説明したものか悩む。

 自分がこの旅商隊(キャラバン)付きの護衛では無いこと。そして……


「ああ、アザレア――さん。この嬢ちゃんは、“兵器”になりたくてここに来たんでさあ」


 口ごもっているシオンを見かねてか、商人の男が彼女のかわりに口を開いた。シオンもうなずく。


「そうだ。あたしは、“首都”に来るために護衛を対価にここまで乗せてきてもらったんだ。だから、この人たち専属の護衛じゃ……」


「なるほど、そうでしたの」


 商人の男とシオンの説明に、アザレアはうなずく。イツキがぼそりと呟いた。


「今どき珍しいな。“兵器”になりたいなんて」


「それは……」


 再び口を閉じるシオンに、アザレアは優しく微笑みかける。


「まあ、誰にだって事情があるものですのよ。――お嬢さんはワタクシといらっしゃるといいわ。これから境界線基地(ボーダー・ベース)に戻るところだったし」


「……いいのか?」


 首を傾げるシオンに、アザレアはうなずく。その表情は穏やかだった。


「ええ。仲間が増えるのは大歓迎ですもの」



<><><>



「そう言えば、まだお名前を伺ってなかったわ」


 イツキとキャラバンと別れ、アザレアとシオンは歩き始めた。


「シオンという。“大戦”中期の《アスピトロ公国》製で――最近まで、ダルグの地区防衛をしていた」


「あら。ダルグの地区防衛なんて、エリートさんじゃないですの」


 笑いながらそう言うアザレアに、シオンは驚く。


「知っているのか?」


「ダルグについて? 勿論ですわ〜。“首都”は大陸の主要終点(ターミナル)ですもの。物も人もお金も――情報も。あちこちからやってきますわ」


 『遺物境界線(レリックボーダー)』に等間隔で取り付けられた機械ランプの仄暗い明かりの下、ふたりは歩いていく。


「ああ、そうだ。せっかくだから“兵器”についてお話しましょう。――いま、“兵器”に所属しているアーティファクトは五十名弱。その殆どが『Ⅰ型』アーティファクトですわ」


「……そんなに、少ないのか?」


 シオンは驚く。“兵器”といえば、大陸で一番大きな都市である“首都”を守る最強の戦士たちだ。


「てっきり、巨大な軍組織だとばかり思っていた」


「ふふ……よく言われますわ。でもそもそも、人間のもとに残ったアーティファクトなんて、数えられるほどしかいませんもの。その中の一部がワタクシたち“兵器”なら、そんなにたくさんいるわけが無いのですわ」


 そう言って、アザレアは不意に足を止めた。


「かつての北方も南方も関係なく、ただ人間を守るためだけに今日まで生きてきた。“兵器”はそういう者たちの集まりですわ。どれだけ戦力が少なくても、命を賭して人々の生活を守り抜く。――貴女には、その覚悟がおありで?」


 静かに凪いだ紫の瞳が、ひたとシオンを捉える。シオンも立ち止まって、そっと瞑目する。やがて目を開いた時、彼女の目は真っ直ぐにアザレアを見つめていた。


「そうじゃなきゃ、ダルグの防衛なんてしてなかったし――今ここにいない」


「……」


 アザレアは黙ってシオンを見つめて――笑った。


「ふふふ、そうですわね。そのとおりですわ。――さあ、行きましょう? ベース本部のハッチはもうすぐですわ」


 スキップするように軽やかに歩いていくアザレア。シオンはその背中を追った。

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