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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
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141,

「ん〜、そうそう。そうだったわぁ。……いい頃合いなんではないの? あかねが大元帥になってそれなりに経つし、『四都同盟』の面々にあかねの存在を見せるチャンスよ」


 人差し指をピンと立てるマザー。的場は微笑んだ。


「マザーがそう言ってくれるなら安心です。――元老院(セナトス)のみんなもそう言ってくれたんですけど、最終決定権は僕にあるので。……やれやれ、荷が重い」


 的場は、どこか芝居じみた動きで肩を落とす。その姿に、マザーは意味ありげに笑みを深めた。


「そんな事を言って、もう気持ちは決まっていたのでしょう? あかねが、どれだけ民のことを考えて動いてるかなんて、妾はよ〜く知っているんだから……妾の顔色なんて、伺わなくてよいのよ」


「ふふ……。それでもマザーに聞きたかったんですよ。――僕はまだまだ臆病者だ」


 一瞬昏い表情を見せた的場だったが、すぐにいつもの穏やかな表情に戻った。


「マザーの言質は取れたので、このままサミットを開く方向で進めてみます」


「そうねぇ、それがいいわぁ。頑張ってね」


 マザーに軽く一礼をして、すたすたと地下広間を去っていくその後ろ姿に、マザーは呆れたように笑いながら静かに呟く。


「その臆病さが、どれだけ多くの人間を惹きつけているのか。それがわからないあたり、あかねもまだまだ“お子様”ねぇ。――権力に世論にメンツに。人の子というのは、まっこと生きづらい生きものよ」


 真実を見通すその『眼』は、的場の背中を透かして、更にその先を視ていた。



<><><>



「――あら、先生。インナーは無しにしましたの?」


 もうすぐ六月。いよいよ暑くなり始める空の下、修練場の階段に腰を下ろして銃の手入れをしていたアザレアは、そばを通りがかった天音に声をかける。


「ええ、暑いです。アザレアさんはよくそれで平気ですね」


 いつもの七分袖の下から素肌の腕を覗かせる天音は、アザレアを見て眉をしかめた。


「摂氏27.5℃。五月の終わりにしては、随分と暑いですわねぇ。ワタクシ、先生と違って気温は数値としてしか感じませんので、ぜーんぜん平気ですわぁ」


 アザレアのあっけらかんとした笑いは、天音にじっとりと睨まれて苦笑になる。


「……『見てるだけで暑い』とか文句を言われてもいけないので、半袖を用意することを善処しますわー」


「もう思ってます、」


 ぼそりと呟かれたその声は、すぐに修練場から聞こえてきた凄まじい歓声――というよりかは怒声によってかき消されてしまう。天音はそちらを向いた。


「なにかあったんですか?」


「ああ。イツキが新しい武器を手に入れたから、それで手合わせをしてほしいっていう“兵器”がわらわらと集まってるんですわ。――バカですわねぇ、勝てるわけ無いのに」


「……あのサイス、“精霊の加護(プロテクション)”を通すんですけど大丈夫でしょうか」


 不安げな眼差しの天音に、アザレアは笑いかけた。


「心配いらないですわ。将軍が『俺も手合わせがしたい!』なんて言って、同じサイズの鎌を木で作ったんですもの。先生が作ったんじゃないから、プロテクションなんてこれっぽっちも通しませんの。木刀ならぬ“木鎌”ですわぁ。――ああ〜! 馬鹿ったい」


 のけぞるように天を仰ぐアザレアを横目に、天音は少しだけ戦闘が行われるフィールドに近づく。


「待てっ! 聞いてない聞いてない、強すぎるって!」


「……うるさ」


 叫び声を上げながら逃げ惑う“兵器”を、イツキが木製の鎌を振り回して追い立てている。

 自らの手足のように鎌を振るい舞い踊るイツキの様子に、天音は目を奪われた。


「……《血紅石》製の紅い鎌だったら、もっと綺麗なんだろうな」


「戦う様子を“綺麗”なんて言うなんて、相変わらず先生は不思議ですわねぇ」


 食い入るようにイツキの動きを眺める天音を見て、アザレアは優しく微笑む。

 青い空に、また歓声が吸い込まれていった。

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