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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
140/476

140,

「――それで、怪我人は出なかったんですか?」


「ああ。だからお前の出る幕はないぞ」


 敵兵の処理を終わらせてイツキが部屋に戻ってくると、天音がベッドに腰掛けて待っていた。曰く、戦闘の様子をずっと窓から見ていたらしい。


「でも、角度的によく見えませんでした。――途中、おそらく最前線だったであろうところで、砂煙がすごく上がってたんですけど……あれって、イツキですか?」


「さあ。つか、寝てろよ病人。安静はどこにいった」


 イツキの言葉に、天音は不機嫌に眉を寄せる。


「“首都”史上最大の襲撃だって言ってるのに、おちおち寝てられるわけがないじゃないですか! 病人だろうがなんだろうが、修繕師(リペアラー)は私一人ですよ?」


 万一に備えて準備してました。と、天音は足元の工具箱をペチペチと叩く。


「まあ、私の仕事がないのが一番ですからいいですけど。――それで、武器の使用感はいかがでしたか?」


 マントを外してかけ釘に掛けるイツキの背中に、天音はわくわくと問いかける。手袋を外しながら、彼は訝しげに目を細めた。


「なんで大鎌(サイス)なんだよ。もっとあっただろ? 他に」


「え、使いづらいですか?」


 きょとんと首を傾げる天音に、イツキは息をつくと彼女の隣に腰を下ろす。


「別にそうじゃない。むしろ使いやすいが……変わった趣味だと思って」


「だって、大鎌っていかにも『死神』っぽくないですか?」


 かっこいいでしょう? と、天音は目をキラキラさせる。イツキはあからさまにため息をついて顔を伏せた。


「――知ってた。深い理由なんて無いって……知ってた」


「な、なんでそんなに残念そうなんですか!? 勿論実用性が一番ですが、見た目だって大切ですから」


 天音は身を乗り出してイツキを睨んだが、そのまま不満げにそっぽを向いてしまう。その横顔を、イツキはじっと眺めた。



「――ありがとう」



「え……?」


 突然ぼそりと呟かれた低い声に、天音は目をみはる。イツキはその目を見つめて、囁くように言った。


「武器、作ってくれてありがとう。――こんなふうに気にかけてもらったことが無かったから」


 嬉しかった。

 イツキはほんの僅かに微笑んで見せる。その表情に、天音はぼんやりと見とれた後――慌てたように視線を彷徨わせた。


「しっ、仕事ですし……いやあの、あなたのことを心配してるのは本当なんですけどっ! だから、その……」


「わかってる……ふっ、」


 頬を桜色に染めてあたふたと言葉を連ねる天音に、イツキは今度こそ吹き出す。そんな彼に、天音はぎゅっと眉根を寄せて突っかかった。


「もう、笑わないでくださいっ! 悪いのはイツキですから」


 珍しく感情的に叫ぶ天音を、イツキは軽くいなして笑い続ける。

 窓から差し込んだ淡い光が、静かにふたりを照らしていた。



<><><>



「――んふふ。ほんとに可愛らしいわぁ、この子たちは」


「何を視ているんですか? マザー」


 首都中枢塔の地下。どこか遠くを見つめてくすりと笑うマザーに、的場は首を傾げる。


「あらあら〜。普段はこんなに笑わないのに――無自覚にお互いが愛しくてしょうがないんだわぁ」


「?」


 なんのことだかさっぱりわからない的場は、ただ疑問符を浮かべることしかできない。マザーは再び視線を的場に合わせた。


「あら、話の腰を折ってしまったわねぇ。何だったかしら?」


 頬に手を当ててとぼけた表情をするマザーに、的場は苦笑した。


「『四都同盟』の同盟会合(サミット)を近々“首都”で開きたい、という話ですよ。マザー」

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