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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter2,『100年の眠りの先』
14/476

14,

「はあ……。すみません、ちょっと変な子なんです……」


「……“ちょっと”ではないな」


 呆れ返ったような目で、ルクスが飛び去った空を眺めるイツキの隣で、天音は窓枠に残ったランチボックスを持ち上げる。


「それ……」


「ああ。これは朝ごはんです」


 天音はソファーに腰を下ろして、それの蓋を開ける。中には卵とハムを挟んだホットサンドが入っていた。


境界線基地ボーダー・ベースの敷地内にある食堂の子が、遅くなると届けてくれるんです。……普段は、もう少し早い時間に食べに行くようにしているんですけど」


 彼女はホットサンドをひとつつまんで咥えると、エプロンを着た。


「寝過ごしてしまったので……早速、作業を始めます」


 昨日と同じ場所にイツキを座らせると、天音はホットサンドを咥えたまま工具を持つ。


「……食べてからやれよ」


「時間が惜しいです」


 よくあることなので問題ないです。天音はそう言ってホットサンドを咀嚼すると、――イツキの体に工具を突き立てた。



<><><>



「あぁ〜っ!やっと終わりました……」


 再び空が赤く染まり、部屋の中も明るく照らし出される。

 天音が工具を持ったまま、ソファーの上でのけぞった。


「はあ……」


 イツキも息を吐き出して体を動かす。


「結局、一日仕事になっちゃいましたね。――どうですか?動かしづらいとことか、痛いとことかありませんか……?」


 天音がどこか不安そうに尋ねる。イツキはしばらく、手を握ったり広げたり、足を動かしたりしていたが、やがて天音を見る。


「今までで一番、滑らかに体が動く……」


 自分の手を不思議そうに見て、イツキが呟く。その言葉に天音はまたソファーの上で仰向けに脱力する。


「よかった……うまく直って」


 ホッとしたような表情の彼女を一瞥してイツキは服を着る。


「……その……なんだ。――助かった」


 天音から視線をそらしてボソボソと呟くイツキ。天音はキョトンとしたように、目をパチパチと瞬かせる。


「ふふっ……」


「……!」


 小さな笑い声に振り返ったイツキは、ジワリと目を丸くする。天音が彼を見上げて笑っていた。


 ――細められた蒼い澄んだ瞳が。桜色の唇が描く、ゆったりとした弧が。

 花開くような美しさを持っていた。


「律儀なんですね。当然のことなのに」


 クスクスと揶揄うように肩を震わす天音から、イツキは再び目を逸らす。


「……うるさい」


 見ていられなかった。……今まで、こんな顔で笑いかけられたことがなかった。



 ――なんだよ、これ



 意味のわからない……強いて言えば“感情”のようななにかに、イツキは静かに揺り動かされた。

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