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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
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137,

「……どこにいやがる」


 警報が鳴り響く中、イツキは立ち上がって窓の外を睨む。彼が索敵エネミーサーチを発動させるために目を閉じるのを、天音は固唾をのんで見つめた。


「……」


「いましたか?」


 天音の問いかけに、イツキは軽くうなずくと、耳に手を当てた。


「こちらイツキ。ローレンス、敵を見つけた」


『了解。位置は?』


 天音には聞こえないが、電波状況の影響でガサガサと掠れた、ローレンスの声がイツキには聞こえる。


「ボーダー外周南西。距離は四百メートル。急いだほうがいい。俺もすぐに向かう」


『え!?お前、先生の様子を見てるんじゃ無かったのか?』


 顔が見えなくても伝わってくるローレンスの驚きに、イツキは冷静に答えた。


「本業が優先だ、他は知らん。とにかく急げ。かなり近くまで迫ってきている」


 イツキは強引に通信を切ると、天音を見た。


「武器は今すぐに使えるのか?」


「ええ、一応。使用方法はさっき話したとおりですし……。でも、まだ使って調整が済んでないので、うまく使えるかどうか」


 天音は眉を下げる。その不安そうな表情に、しかしイツキはわずかに唇の端を吊り上げた。


「じゃあ、試運転になるな。丁度いい」


 その言葉に、天音は深くため息をつく。


「敵を舐め過ぎでは……?」


「異形でもない限りは、所詮ザコだ。それに、調整も何も、変態のお前ならどうせ俺びったりに作ってあるんだろ?なら問題ない」


「――変態」


 不服そうに呟く天音の表情に、イツキはまた微かに笑う。

 そのまま彼女に背を向けると、ドアを開けて振り返った。


「行ってくる。――大人しくしてろよ、天音」


 どこか優しげな声色に、天音は目を丸くして――淡く微笑む。


「言われなくてもそうします。……行ってらっしゃい、イツキ」


 ドアの閉まる音に、天音は短く息を吐き出すと立ち上がる。わずかによろめきながら、窓枠を掴んで外を見た瞬間、


 視界の端で、轟音とともに砂煙が立ち上るのが見えた。



<><><>



「おうおう……えらく量が多いなぁ」


 ゲンジが呟く。しゃがみこんで無線機を操作していた“兵器”のひとりが、ゲンジを見上げた。


ローレンス(参謀殿)からの情報によると、二百は超えているとか。――過去最高数を、あのときの二倍で更新ですね……。へへっ――“首都”近郊のアーティファクトが減ったと思ったら、このザマだ」


 圧倒的な敵の量を目の前にして、もはや笑うことしかできない。“兵器”たちは互いに顔を見合わせた。


「……とにかく、先行部隊は前へ。できるだけ数を削ってくれ。限界が来たところで、後方と入れ替える」


 ゲンジのだみ声に、アキラとアザレアが前に出た。他に数人の“兵器”たちも、その後ろにつく。


「了解。――循環戦法(ローテーション)か。長期戦必至ってところかな。アザレア、援護を」


「わかっていますわ!」


 抜き身の“本体”を軽く振って、アキラはアザレアを見やる。彼女はうなずくと、両手の中に現れた銃を握って構えた。


「じゃあ行くぞ、お前らっ!一匹たりとも中に入れるな!」


「「おう!」」


 ゲンジの叫び声に、“兵器”たちは一斉に動き始める。先陣を切るアキラとアザレアは、颯爽と敵陣に切り込んでいく。


「後方、散開してできるだけ広く守れ。……ローレン、中の避難は済んでるんだろうな!?」


『当たり前だろう。残っているのは境界線基地(ボーダー・ベース)職員の一部くらいだ。一般市民の避難は完了している』


 無線機から聞こえたローレンスの声に、ゲンジはうなずく。


「耐えている間にどれだけ削れるか、だな……」


 既に、先行部隊の第一防衛線を抜けたアーティファクトもちらほら見え始めている。後方――第二防衛線でも、交戦が始まった。

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