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「――終わりました。どうです?違和感とか、ありませんか」
「ああ、問題ない」
右手を閉じたり開いたりして動作を確認しながら、イツキは答える。天音は工具箱を閉じて、息をついた。
「次の戦いに間に合うようにと思って、急いで作ってたんです。よかった――間に合って」
ほっとしたように呟いて、天音はベッドの上にゴロンと横になる。イツキは無表情のまま横目でそれを眺めながら、ずり落ちたシャツを肩まで引き上げた。
「どこまでお人好しなんだ、お前は。――あんなに苦しんでまで、することじゃないだろ」
呆れが混じった声音に、天音はきょとんとイツキを見上げる。彼はため息をついた。
「いくら“首都”防衛のためとは言え、お前ひとりがここまでする必要なんて無いだろ?戦うのは、あくまで“兵器”だ。……なのにどうして、」
「――別に、“首都”防衛のためだけにあなたに武器を作ったわけじゃないです」
天音の囁くような声に、イツキは彼女を見つめる。天音は困ったようにほんのりと苦笑した。
「“精霊の加護”を制御できない辛さは、私にもよくわかるので。“首都”のため“兵器”のため、というよりかは……イツキのため、なんですよ」
「……」
言葉を失うイツキ。その目は、驚いたように大きく見開かれていた。天音は微笑むと起き上がって、彼の顔を覗き込む。
「私が言うと説得力がありませんけど……独りで無理しないでください。私は修繕師です。戦うことはできませんが、あなたのことを守りますから!」
ふわりと笑って、天音は胸を張って見せる。イツキはそんな彼女をちらりと見ると、すぐに顔を伏せた。
「わあっ!?」
「頼りねーんだよな……こんなひょろひょろ」
突然、髪をグシャグシャと強引に撫でられて、天音はぎゅっと目を瞑る。――だから、イツキがどんな表情で彼女を見つめているのかを、見ることはできなかった。
「な?ひ、ひどいです!機械を直すことにおいて、私以上に頼れる人間はいないのに……」
イツキの手が離れる。不服そうに唇を尖らせて、天音はイツキを見上げた。伏せられた彼の表情は、黒髪に隠れてしまって見えないが――わずかに覗く薄い唇は、静かに弧を描いていた。
「お前は――天音は、おかしなやつだ」
掠れた低い声。笑っているような、泣いているような、“感情”のこもった声に、天音は目を瞬かせて――笑った。
「おかしくないですよ。私にとっては、これが普通です」
そう言って、ベッドの端まで移動すると、イツキの隣に寄り添うように座る。ふたりは暫く、そうやって無言でいた。
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「……お腹が空きました」
――どれだけ経ったのか。隣から聞こえた声に、イツキは顔を上げる。
ぼんやりとした表情の天音が、虚空を見つめていた。
「食欲が戻ったのか」
「ここ数日まともに食べてないので……」
天音はまたルクスを呼ぶと、ローリエに遅めの昼食を作ってもらうように頼む。飛び去った彼の後ろ姿を眺めて、イツキは思い出したように天音を見た。
「そういえば、武器って一体何を作ったんだ?」
「?――何、とは」
天音はよくわからなそうな表情を浮かべる。
「俺が振り回すのに強度が足りないとかなんとか言ってたよな。――振り回すって、どんな武器を作ったんだよ」
「アキラさんが、イツキは近接武器ならなんでも使えるって言ってましたから、あれを作ったんです。えっと……、」
肝心の名前を思い出せないのか、天音は眉根を寄せる。
――彼女が顎に手を当てた、その瞬間だった
『緊急事態、緊急事態……』
「っ!」
「マザーの警報!?」
耳障りな警報音が部屋中に響き渡り、天音とイツキは顔を見合わせた。