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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
136/476

136,

<><><>



「――終わりました。どうです?違和感とか、ありませんか」


「ああ、問題ない」


 右手を閉じたり開いたりして動作を確認しながら、イツキは答える。天音は工具箱を閉じて、息をついた。


「次の戦いに間に合うようにと思って、急いで作ってたんです。よかった――間に合って」


 ほっとしたように呟いて、天音はベッドの上にゴロンと横になる。イツキは無表情のまま横目でそれを眺めながら、ずり落ちたシャツを肩まで引き上げた。


「どこまでお人好しなんだ、お前は。――あんなに苦しんでまで、することじゃないだろ」


 呆れが混じった声音に、天音はきょとんとイツキを見上げる。彼はため息をついた。


「いくら“首都”防衛のためとは言え、お前ひとりがここまでする必要なんて無いだろ?戦うのは、あくまで“兵器(俺たち)”だ。……なのにどうして、」


「――別に、“首都”防衛のためだけにあなたに武器を作ったわけじゃないです」


 天音の囁くような声に、イツキは彼女を見つめる。天音は困ったようにほんのりと苦笑した。


「“精霊の加護(プロテクション)”を制御できない辛さは、私にもよくわかるので。“首都”のため“兵器”のため、というよりかは……イツキのため、なんですよ」


「……」


 言葉を失うイツキ。その目は、驚いたように大きく見開かれていた。天音は微笑むと起き上がって、彼の顔を覗き込む。


「私が言うと説得力がありませんけど……独りで無理しないでください。私は修繕師(リペアラー)です。戦うことはできませんが、あなたのことを守りますから!」


 ふわりと笑って、天音は胸を張って見せる。イツキはそんな彼女をちらりと見ると、すぐに顔を伏せた。


「わあっ!?」


「頼りねーんだよな……こんなひょろひょろ」


 突然、髪をグシャグシャと強引に撫でられて、天音はぎゅっと目を瞑る。――だから、イツキがどんな表情で彼女を見つめているのかを、見ることはできなかった。


「な?ひ、ひどいです!機械を直すことにおいて、私以上に頼れる人間はいないのに……」


 イツキの手が離れる。不服そうに唇を尖らせて、天音はイツキを見上げた。伏せられた彼の表情は、黒髪に隠れてしまって見えないが――わずかに覗く薄い唇は、静かに弧を描いていた。


「お前は――天音は、おかしなやつだ」


 掠れた低い声。笑っているような、泣いているような、“感情”のこもった声に、天音は目を瞬かせて――笑った。


「おかしくないですよ。私にとっては、これが普通です」


 そう言って、ベッドの端まで移動すると、イツキの隣に寄り添うように座る。ふたりは暫く、そうやって無言でいた。



<><><>



「……お腹が空きました」


 ――どれだけ経ったのか。隣から聞こえた声に、イツキは顔を上げる。

 ぼんやりとした表情の天音が、虚空を見つめていた。


「食欲が戻ったのか」


「ここ数日まともに食べてないので……」


 天音はまたルクスを呼ぶと、ローリエに遅めの昼食を作ってもらうように頼む。飛び去った彼の後ろ姿を眺めて、イツキは思い出したように天音を見た。


「そういえば、武器って一体何を作ったんだ?」


「?――何、とは」


 天音はよくわからなそうな表情を浮かべる。


「俺が振り回すのに強度が足りないとかなんとか言ってたよな。――振り回すって、どんな武器を作ったんだよ」


「アキラさんが、イツキは近接武器ならなんでも使えるって言ってましたから、あれを作ったんです。えっと……、」


 肝心の名前を思い出せないのか、天音は眉根を寄せる。

 ――彼女が顎に手を当てた、その瞬間だった



緊急事態(エマージェンシー)緊急事態(エマージェンシー)……』



「っ!」


「マザーの警報!?」


 耳障りな警報音が部屋中に響き渡り、天音とイツキは顔を見合わせた。

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