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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
135/476

135,

「武器?」


「アザレアさんの二挺拳銃を見たことはありますか?」


 イツキはうなずく。


「たしか、お前に作ってもらったとアザレアは……」


「ええ。あれと同じ技術で、この歯車を作りました」


 天音はハンカチに乗ったままの歯車を膝の上に置くと、工具箱を開く。


「アーティファクトの現身について研究する中で、編み出した技術です。あらかじめ用意しておいた物体を仮想情報(データ)に落とし込んで、歯車やその他の機械部品に保存しておくんです」


 そう言いながら、天音は工具をいくつか取り出してイツキを見つめる。


「ところで、利き手はどっちですか?」


「は?」


 突然の天音の問いかけに、イツキは疑問符を浮かべる。


「だから利き手です。右手ですか、左手ですか?」


「――利き手の概念は無いが……強いて言えば、右か」


 訝しげな表情をしながらも答えるイツキに、天音はうなずいた。


「そうですか。では、シャツを脱いでください」


「だから、なんでそうなる……」


 真顔でなんの脈絡もないことを言う天音を、イツキは呆れたように眺める。天音は嘆息した。


「全部説明するのはめんどくさいんですけど……。歯車を取り付けるだけですよ?」


「流石に、得体の知れないものを体の中に入れるのは、嫌なんだが」


 渋るイツキに、天音は眉を寄せながらも説明を続けた。


「アザレアさんの二挺拳銃と同じです。この歯車には、私が作った武器のデータが格納されていて……これを取り付けることによって、武器を使えるようになります」


「でも、武器は俺にとっては無意味だ」


 イツキはうつむいて呟く。その声には諦めがこもっていた。


「俺の“精霊の加護(プロテクション)”は、対象に直接触れないと発動しない。――お前も知っているだろう」


「ええ」


 天音はうなずく。その表情は至って真面目だった。


「だったらなんで……」


「まさか、私がそんなことも考慮せずに武器を作った、とでも?」


 心外だ、と言わんばかりの刺々しい口調。天音はじっとイツキを見つめた。


旅商隊(キャラバン)に紛れていたアーティファクト――カイトさんのこと、覚えていますか?」


「忘れようが無いだろう、あんなこと」


 天音の問いの意図が見えないまま、イツキは正直に答えた。


「カイトさんの“本体”は、改造による特異点(アノマリー)によって、彼が死んでも消えることは無かった。その残った“本体”が――プロテクションを媒介して、増幅させる特殊な素材でできていることに気づいたんです」


「……」


 天音はその特徴を見つけるに至った経緯と、詳しい内容を説明する。イツキはそれを黙ったまま聞いていた。


「――プロテクションを媒介……あいつの“本体”で、俺に武器を?」


「ええ。と言っても、本体はほとんど《血紅石》を使って作りました。あなたが振り回すには強度が足りなくって。でも、ちゃんとプロテクションを通すようには作ってありますから、心配しないでください」


 そう言って、天音は工具を持ち上げる。


「右手が利き手なら――そうですね、右の肩甲骨の辺りに歯車を入れるので、みせてください」


「わかった」


 イツキはようやく納得がいったのか、片肌を脱ぐ。顕になった右肩に、天音は手をおいた。真剣な面持ちで、メスのような器具を使って人工皮膚(スキン)を裂いていく。


「この歯車の中に、武器本体をデータとして保存してあります。使い方としては、右手を伸ばして握ってもらうと、手の中に現れるようになってます。手から離れて地面についた瞬間に、元のように収納されてしまうようにできているので、注意してください」

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