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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
134/476

134,

 ――夢じゃ、無かったんだ


 天音は心のどこかでホッとする。優しく触れられた感覚が、ちらりと思い出された。


「――イ、ツキ?」


 恐る恐る名前を口にすると、イツキは天音と目線の高さを合わせるように、わずかに身をかがめる。


「なんだ……天音」


「っ!」


 ゆったりとした柔らかさを含んだ声が、静かに天音の名前を呼び返す。まっすぐ見通す紅い瞳。ぎゅっと心臓を掴まれたような気がして、天音は両手を握り合わせた。


「っあ……よ、んでみただけ、です。ごめん、なさい」


「ああ、そう」


 天音のとぎれとぎれの言葉に、イツキはただそう呟く。その声は淡々としているのに、もう責められているとは感じない。

 沈黙。穏やかな空気は、陽だまりのような暖かさで満たされていた。



「イツキ、あの……」


「ん?」


 再び呼ばれた名前に、イツキは天音を見つめる。深い蒼色の目が、上目遣いで彼を見ていた。


「実は、その……ずっと工房にこもってた理由、なんですけど――作っていた物があって」


「――死にそうになってまでか?」


 イツキは天音の言葉に目を細める。鋭い視線に、天音はたじろぐと、ふらふらと視線を彷徨わせてため息をついた。


「どうしても必要なもので。その――イツキに、あげたくて」


「は?俺、に……?」


 思いもよらなかった言葉に、イツキは目を丸くする。天音はうなずくと、開け放たれた窓に目を向けた。


「ルクス」


『ナニ?マスター』


 窓枠にとまって首を傾げるルクス。天音はじっと彼を見つめた。


「工房から、アレ(・・)と工具箱を取ってきて。傷つかないように何かに包んでね」


「――お前な。医者に安静にしていろって言われなかったのか?」


 イツキが呆れたように言う。しかし、天音はムスッっとした顔でそれを無視した。


「ルクス早く。――行かないようなら“命令”にするよ」


『ワ、ワカッタ!モッテクルカラ』


 天音の低い声の圧力に、ルクスは慌てふためいて青空へと飛び立っていく。イツキは渋い顔をした。


「懲りない奴め」


「無茶はしません!一刻を争うことなんです」


 布団を跳ねのけて、天音はベッドの上に膝立ちになるとイツキににじり寄る。


「マントを取ってください」


「――なんで」


 胡乱な表情を浮かべるイツキ。天音は有無を言わせぬ眼差しで、彼を見上げた。


「何でもです。早くしてください」


 グズグズするなと言わんばかりに、天音は彼のマント留めに手を伸ばす。その手を払い除けてイツキは嘆息した。


「わかったって」


 渋々マントを外すイツキの横で、天音は窓の外を見る。ちょうどそのタイミングで、ルクスが戻ってきた。


『モッテキタ』


「ありがとう」


 ルクスは、イツキの後ろに大きな工具箱を下ろす。スプリングがまた軋む。そして、天音の手の上にとまると、ハンカチに包まれた何かを手渡す。

 天音はそれを受け取ると、神妙な面持ちでそれを開き――両手でイツキに差し出した。



「これを――イツキに」



「これは……」


 天音の手のひらの上に乗っていたのは――小さな歯車だった。

 透き通るような赤色の金属でできたそれは、陽の光に輝いている。


「この前の戦いで《暴走》が起きた時、すごく苦しそうだったので……」


「これが、《暴走》を食い止められるっていうのか?」


 不思議そうな表情で歯車を眺めるイツキに、天音は説明する。


「《暴走》を食い止めるだけではありません。――これは武器なんです」

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