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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
132/476

132,

「ルクス。いるんだろ」


『ココ!』


 イツキが窓の外に向かって声をかけると、窓枠越しにルクスが顔を出した。


「ルクス……」


『マスター、ダイジョウブ?』


 天音を上から覗き込んで、ルクスは首を傾げた。うなずいて見せる天音を横目に、イツキはルクスに言う。


「あの医者に、こいつの目が覚めたことを知らせてこい。――早くしろよ」


『イワレナクテモッ!オマエハ、コワクナイ。デモ、セレイネハ、コワイ』


 パタパタと飛び立ったルクスの後ろ姿を、イツキは睨みつけた。


「バカ鳥が……」


「セレイネさんが――いるんですか?」


 両手をついて上半身を起こしながら、天音は問う。イツキは無言のまま、彼女の背中を支えた。


「……ありがとうございます」


「お前が起きたら呼ぶようにとだけ言って、あの医者はどこかに行った。――俺にお前を押し付けてな」


 どこか不機嫌そうなイツキの表情に、天音は眉を寄せた。


「――ごめんなさい」


「はあ……」


 イツキはため息をつく。紅い目が鋭く天音を見た。


「一体、あんなに無茶をして何をしていたんだ?」


「それは……」


 どう答えたものかと天音が顔を伏せた時、ドアが開く軋んだ音が聞こえた。


「やっと目を覚ましたかい。どうだい?調子は」


「――セレイネさん」


 そこに立っていたのはセレイネだった。後ろにはアザレアもいて、天音に控えめに手を振っている。

 ベッドに近づいてくるセレイネを見て、イツキは天音の背中から手を離した。


「おい、あんた」


「出てけって言いたいんだろ?わかってる」


 イツキはうざったそうにセレイネを見て、彼女と入れ違いにドアの方へ歩いていく。

 その姿に、天音は何故か不安を覚えた。


「ま、イツキ……」


 気がつくと、彼の後ろ姿に向かって手を伸ばしていた。イツキがちらりとこちらを振り返る。その目は、淡々と天音を見ていた。


「……」


「ぁ……」


 咄嗟にイツキの名前を呼び捨てにしてしまったことに気づいて、天音は口元に手を当てる。――昨晩それを許された気がしたが、あの時意識が混濁していた天音には、それが現実のことなのか夢の中のことなのかが判別できない。


 ――しまった、


 怒らせてしまったのではないかと天音は身構える。無意識のうちに両手を胸の前で握りしめていた。

 が、イツキはそんな彼女から目をそらし、ふいっとドアの方を向く。


「外で待っている」


 これまた淡々とした声とともに、彼の姿は部屋の外へと消えてしまった。


「まったく……やたらに無愛想な機械だね」


 セレイネはそう言って顔をしかめると、上着を脱いで持っていたバッグを開いた。


「……大丈夫ですの?先生」


「え?――あ、はい。大丈夫、です」


 その横で、アザレアが黙ってしまった天音の顔を覗き込む。天音はぱっと顔を上げて――何かに気づいたようにきょろきょろと部屋の中を見回した。


「ここ……工房じゃない?」


「あー。えっと、ルクスが工房の窓を割ってしまって……。わざとでは無いのですわ!ちゃんとわけがあって」


「なんとなく察しました。――どうせ、部屋も汚かったですし」


 天音の言葉にアザレアは苦笑する。天音は眉を寄せた。


「じゃあ、ここは」


「“兵器”宿舎のイツキの部屋ですわ。他に空いているところがなくて」


「……え」


 天音は目を丸くする。白い壁と僅かな家具だけの殺風景な部屋。アザレアはクスリと笑った。


「先生をここまで運んだのも彼ですわ。ああ見えて、意外とお人好しみたい」


「ふん。なにがお人好しさね、アレの。アザレア。無駄口叩いてる暇があったら、水を汲みなおしてきな」


 アザレアに水差しを押し付けると、セレイネはドアを顎で差す。

 その後ろ姿を目で追って、セレイネは天音に向き直った。

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