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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter2,『100年の眠りの先』
13/476

13,

『コンコン、コンコン……』


 規則正しい、何かを叩く音が響く。


 ――ん……?


 目を開けると、自分のベッドで寝ているのが分かった。

 大きな枕を抱きしめて、顔を埋める。が、音はまだやまない。


「んーっ……ふああ……」


 天音は起き上がって伸びをする。大きなあくびを一つして、目を擦った。


 ――今、何時だ……?


『コンコン、コンコン』


 起き上がっても、音はまだやまない。


「うるさいな」


 一旦起き上がったものの、天音は再びベッドに横になる。『まだ寝たい』という欲には勝てなかった。


『コンコン、コンコン……。ガチャリ、』


 ――ん?


『ガチャリ』?



「っ、あ!」


 ()()()()()()が聞こえ、音の正体にようやく気づく。

 天音は慌てて立ち上がって、パーテーションの外側に顔をのぞかせた。


「――ああ、起きたのか」


「っ……お、はようございます――」


 昨日、天音が放ったらかしにしてしまった()()が、窓を開けてこちらを振り返っていた。


「これ……入れても大丈夫なやつだったか?」


 その男――イツキは、窓辺にとまった真鍮製の小鳥を指差す。


「……大丈夫、ですよ。それ、私の“自動伝書機キャリアー・ピジョン”なので」


 天音は裸足のまま窓に近づく。明かりの下に出たせいで、昨日と同じ格好をしているのに今更ながら気づいた。

 キャリアー・ピジョンは、小さな紙の箱の上で首を傾げて天音を見ている。


「キャリアー・ピジョン?……随分と古風なものを使っているんだな」


 イツキの呟きに、天音は苦笑する。……イツキが活躍していた“大戦”中でさえ流行遅れと呼ばれていた上、今となってはほとんど使われることのない代物だ。


「“ルクス”と呼んでいます。――それ、こう見えても現身を持たない“骨董遺物アンティーク”なんです。……五年くらい前に『遺物境界線レリックボーダー』の外に落ちているのを拾って、私が直したんですけど」


 天音はそう説明して、ルクスの頭をつつく。足元の箱は、紙製のランチボックスだった。


「また、ローリエさんが送ってきてくれたの?」


 天音は微かに微笑みながら、ルクスに尋ねる。すると、それは嘴を大きく開いた。


『ローリエチャンカラ、デンゴン、デンゴン!“オネーチャン、アンマリヨフカシハ、メッ!ヨ”。ホラ、ローリエ、チャン、スゴクヤサシイッ!!』


「……なんだ、この奇妙な鳥は……」


 けたたましい機械音声で鳴き叫ぶルクスを、イツキは呆気にとられたように見つめる。天音はきまり悪そうに頬を掻いた。


「喋ったら面白そうだなって思って……この子を拾った当時、仕事が立て込んでてほぼ寝れなくって。深夜テンションのまま、余ってた人工声帯を組み込んだら……こんな声になっちゃって」


「……可哀想に」


 同じアーティファクトとして思うところがあったのか、イツキは気の毒そうに呟く。と、ルクスがイツキの方を見た。


『ナンダ!?コノ、テツメンピハ!天音マスター、コイツ、“ムッツリスケベ”デッセ!』


「「……」」


 一瞬、春だと言うのに、空気が凍りつく。



「……こいつ、殺しても(さわっても)いいか」


 ルクスの言葉に、イツキが表情を消して手を伸ばした。天音が慌てて、すんでのところでルクスを掬い上げる。


「ちょっ、駄目です!……ルクス(あなた)も!そんなバカみたいな偏見をどこでっ……」


 天音の手の中でジタバタと暴れるルクスを、イツキは苦々しげに睨みつける。


「……この、バカ鳥が、」


『ウルサイ、テツメンピ!』


 天音の手をすり抜けたバカ鳥(ルクス)は、イツキにそう吐き捨てるといそいそと大空に飛び去った

ルクス


種族:アーティファクト(Ⅱ型)


天音の“自動伝書機キャリアー・ピジョン”。製造は第一次機械戦争の少し前で、『遺物境界線レリックボーダー』の外側に落ちていたのを天音に助けられる。性格は良くないが、優秀な伝書鳩。

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