表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
128/476

128,

<><><>



 シャラシャラと涼し気な羽音が響いて、窓の外から入ってくる。


『モッテキタ』


「ありがとうですわ、ルクス」


 ルクスが持ってきたのは、天音の服が入った包み。アザレアは人差し指の背にとまったルクスを見る。


「ルクス、もうひとつだけ。ローリエに先生のこと、伝えに行ってあげてくださる? ――もっと心配させてしまうかもしれないけれど」


『ワカッタ!』


 ルクスはうなずいて、もう一度開け放たれた窓から飛び立っていく。アザレアは包みを開けながら、セレイネを見た。


「セレイネ、これ」


「ああ。……もう少し待ちな」


 セレイネはそう答えて、天音の上半身を起き上がらせる。天音はずっと、目を虚ろに開いている。


「ほら、薬飲みな」


「……ぅ」


 差し出された薬を、機械的な動作で受け取る天音。セレイネはため息をつく。


「まったく、あんたって子は……。今度はどんな無茶をしたんだい?」


 今でこそ、“兵器”たちのために四六時中走り回っている天音だが、幼い頃はよくこうやって熱を出しては、セレイネの世話になっていた。なにかにのめり込むと帰ってこられない性格も、誰かのために一生懸命になりすぎてしまうことも、セレイネはよく知っている。


「……」


「相変わらず、修繕師(リペアラー)に向かない性格だねぇ」


 コクコクと薬を飲む天音を、セレイネは呆れた視線で見る。


「アザレア、着替えを手伝っておやり。おかしな病気でもなんでも無いいつものことだから、寝たらよくなる」


「わかりましたわ」


 伸びをしながらセレイネは天音から離れる。アザレアが覗き込んだ天音の目は、とろとろと眠そうに瞬いている。


「あら。――先生。着替えないと駄目ですわよ?」


「……んん」


 普段の姿からは想像もできないほどに、幼気な表情。アザレアはくすっと笑う。

 熱で火照った身体。力が抜けきってくたくたになったそれに服を着せて、アザレアはそっと寝かせてやる。


「寝たらよくなるそうですよ」


 天音に布団をかけて、アザレアは立ち上がる。その代わりに、セレイネが天音の枕元に座った。


「とりあえず、暫くはあたしが看ておくから。あんたたちは気にせずに仕事をなさい」


「ええ。そうしますわ」


 アザレアはそう返事をして、背を向ける。

 ――しかし、彼女がドアを開ける前に、



「――しなきゃ、」



 小さな声が聞こえた。アザレアは思わず振り返った。

 天音は眠ったまま、何事かを呟いている。


「……ない、と。い、つき……さん、に……」


「――イツキ?」


 アザレアは首を傾げる。セレイネが訝しげな顔をした。


「誰かね」


「この部屋を使っている“兵器”ですわ。――ほら、セレイネが入ってきたときにいた」


 セレイネは目を細める。また鋭い色が浮かんでいる。


「――連れてきな」


「え?」


 アザレアはぽかんとする。しかし、セレイネの表情は変わらない。


「その“イツキ”とやらを連れてくるんだよ。早く」


 アザレアは困惑しながらも、ドアを開ける。

 その目と鼻の先。目の前の廊下の壁に背を預けて、イツキとアキラが立っていた。ふたりはアザレアを見る。


「――イツキ、」


「なんだ?」


 アザレアの声に、イツキは視線を上げる。


「なんか……先生が、」


「――俺を?」


 ぴくりと、訝しげに片眉を上げるイツキ。アザレアはうなずく。


「……」


 イツキは黙ったままアザレアとすれ違うと、ドアを開けて中に入っていく。アザレアはその後ろ姿を見送るが、

 バタンと音を立てて、目の前でドアは閉まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ