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シャラシャラと涼し気な羽音が響いて、窓の外から入ってくる。
『モッテキタ』
「ありがとうですわ、ルクス」
ルクスが持ってきたのは、天音の服が入った包み。アザレアは人差し指の背にとまったルクスを見る。
「ルクス、もうひとつだけ。ローリエに先生のこと、伝えに行ってあげてくださる? ――もっと心配させてしまうかもしれないけれど」
『ワカッタ!』
ルクスはうなずいて、もう一度開け放たれた窓から飛び立っていく。アザレアは包みを開けながら、セレイネを見た。
「セレイネ、これ」
「ああ。……もう少し待ちな」
セレイネはそう答えて、天音の上半身を起き上がらせる。天音はずっと、目を虚ろに開いている。
「ほら、薬飲みな」
「……ぅ」
差し出された薬を、機械的な動作で受け取る天音。セレイネはため息をつく。
「まったく、あんたって子は……。今度はどんな無茶をしたんだい?」
今でこそ、“兵器”たちのために四六時中走り回っている天音だが、幼い頃はよくこうやって熱を出しては、セレイネの世話になっていた。なにかにのめり込むと帰ってこられない性格も、誰かのために一生懸命になりすぎてしまうことも、セレイネはよく知っている。
「……」
「相変わらず、修繕師に向かない性格だねぇ」
コクコクと薬を飲む天音を、セレイネは呆れた視線で見る。
「アザレア、着替えを手伝っておやり。おかしな病気でもなんでも無いいつものことだから、寝たらよくなる」
「わかりましたわ」
伸びをしながらセレイネは天音から離れる。アザレアが覗き込んだ天音の目は、とろとろと眠そうに瞬いている。
「あら。――先生。着替えないと駄目ですわよ?」
「……んん」
普段の姿からは想像もできないほどに、幼気な表情。アザレアはくすっと笑う。
熱で火照った身体。力が抜けきってくたくたになったそれに服を着せて、アザレアはそっと寝かせてやる。
「寝たらよくなるそうですよ」
天音に布団をかけて、アザレアは立ち上がる。その代わりに、セレイネが天音の枕元に座った。
「とりあえず、暫くはあたしが看ておくから。あんたたちは気にせずに仕事をなさい」
「ええ。そうしますわ」
アザレアはそう返事をして、背を向ける。
――しかし、彼女がドアを開ける前に、
「――しなきゃ、」
小さな声が聞こえた。アザレアは思わず振り返った。
天音は眠ったまま、何事かを呟いている。
「……ない、と。い、つき……さん、に……」
「――イツキ?」
アザレアは首を傾げる。セレイネが訝しげな顔をした。
「誰かね」
「この部屋を使っている“兵器”ですわ。――ほら、セレイネが入ってきたときにいた」
セレイネは目を細める。また鋭い色が浮かんでいる。
「――連れてきな」
「え?」
アザレアはぽかんとする。しかし、セレイネの表情は変わらない。
「その“イツキ”とやらを連れてくるんだよ。早く」
アザレアは困惑しながらも、ドアを開ける。
その目と鼻の先。目の前の廊下の壁に背を預けて、イツキとアキラが立っていた。ふたりはアザレアを見る。
「――イツキ、」
「なんだ?」
アザレアの声に、イツキは視線を上げる。
「なんか……先生が、」
「――俺を?」
ぴくりと、訝しげに片眉を上げるイツキ。アザレアはうなずく。
「……」
イツキは黙ったままアザレアとすれ違うと、ドアを開けて中に入っていく。アザレアはその後ろ姿を見送るが、
バタンと音を立てて、目の前でドアは閉まった。