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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
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127,

「アザレア、明かりつけろ」


 ドアを開けたすぐ脇にあるスイッチを押すと、機械ランプの明かりに殺風景な部屋が映し出される。


「――貴方、本当にこの部屋使ってますの?」


「夜、数時間は戻ってきている。後は知らない」


 天音を簡易ベッドに寝かせながら、イツキはどうでもよさそうに言う。背の高いクローゼットの横にある小さな窓を開け放つと、風が入ってきて埃っぽい空気が薄れる。


「――ぅ」


 ベッドの上で、天音がまた小さく呻く。アザレアは口元に手をやると、背を向けてドアを開けた。


「お水と氷を持ってきますわ。体を冷やさないと」


 去っていく足音を聞きながら、イツキは天音の横に立つ。

 寝かせたときとは違って、横を向いて小さく丸まった格好で、天音は苦しそうに呼吸をしている。額に手を当てると、手袋越しにもじんわりと熱が伝わってきた。


 ぼんやりと、天音はまた目を開ける。


「――大丈夫か?」


 聞く必要はないほどに弱っているのはわかっていたが、聞かずにはいられなかった。天音は焦点の合わない目をイツキに向ける。


「ふ、ぅ……」


 わずかに開いた唇から、熱い息が吐き出される。イツキは彼女の額に汗で張り付いた前髪を、そっと撫でるように掻き上げてやる。

 ピクリと天音の肩がゆれた。



「何をしているんだい」



 突然、ドアが開く軋む音とともに、しゃがれた声が部屋に響く。イツキはゆっくりと顔をあげた。


「誰だ?」


「ふん。こちらのセリフさね。その子から手を離しな」


 そこにいたのは、短い白髪が特徴的な痩躯の女だった。歳は50、60といったところか。吊り目気味の黒い目が、鋭い色を持ってイツキを睨んでいる。


「“セレイネ”。そいつは……」


 その女の後ろからアキラが顔をのぞかせた。その肩にはルクスが留まっている。セレイネと呼ばれたその女は、ずかずかと部屋の中に入ってきた。


「退きな。あたしは医者だよ」


「……」


 イツキは無言のままセレイネを見下ろすと、ドアの方へ向かう。ちょうどすれ違うように、アザレアが戻ってきた。


「あ!セレイネ」


「アザレアか。あんたは入って手伝いな。あと、ルクス。天音の着替えを持ってきな、さっさとおし。――他の男どもはほら、出た出た」


 アザレアが部屋の中に入ったところで、目の前でピシャリとドアを閉められて、イツキとアキラは顔を見合わせた。



「誰だ、あれは」


「だから医者だって、人間の。ベース(ここ)の専属医の、セレイネ・アルトバトラ」


 廊下の壁に背を預けて、ふたりはドアが開くのを待っていた。


「専属医って言っても、実際はこの近辺の町医者でもあるけどな。医者の数が足りてないから」


 “災厄”――かつて起きたアーティファクトの反乱の際、第一線で活躍していた軍医だとか、そのときに四肢を失って実は義肢をつけているんだとか。アキラはそういう情報を淡々と語った。

 イツキはぼんやりと自分の部屋のドアを眺める。


「大丈夫なのか、あいつ」


「――先生のことか?珍しいな。お前が誰かを心配するなんて」


 いつもは無関心だろ?と、アキラは目を瞬かせる。イツキはふいっと視線を逸した。


「流石に、苦しそうだったから」


 ぼそっと呟かれた言葉に、アキラは驚きを覚えた。

 無愛想で周り――特に人間のことなんて心底どうでもいい。そういう性格なのがこの男なのだとばかり思ってきたが……最近は、そうでもない気がする。

 どこか緊張に満ちた紅い目線を、アキラは横目で眺める。


 そのとき、


「――イツキ、」


 目の前のドアが開いて、アザレアが顔を覗かせた。

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