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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
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126,

「!――修繕師が?」


『ハヤク……タ、スケテッ』


 震えるルクスの声に、イツキは走り出す。ルクスはその後を低空飛行で追いかけた。


「――聞こえてるか、アキラ」


『ん?イツキか。どうした……』


 修練場の前を通り過ぎ、長い廊下を勢いよく駆け抜けながら、イツキが無線連絡をしたのはアキラだった。間延びしたアキラの声に、イツキは早口で言葉を被せる。


「今すぐ修繕師の工房に来い。アザレアも連れて、できるだけ急いでだ」


『はあ?なんで、』


「いいから早く!」


 階段を駆け上がって、イツキは強引に通信を切る。気がつけば、イツキの前をルクスが飛んで先導していた。


『ココ……アケラレナクテ。ボクハ、マドヲコワシテ、デタンダケド』


「――馬鹿なのかあいつは。鍵かけたままなのかよ」


 イツキは工房の扉のドアノブを掴んで、激しく動かす。索敵(エネミーサーチ)を発動すると、確かに中には人の気配があった。


「おい、開けろ」


 激しく扉を叩いても返事はない。イツキは舌打ちをうった。


「ったく、手間かけさせやがって」


 そう言って一歩下がると、ルクスにちらりと目線をやる。


「下がってろ」


『ウ、ン』


 ルクスが離れたことを確認して、イツキは軽く弾みをつけると、思いっきり扉を蹴飛ばす。


『ガターンッ!!』


 長い脚が扉の真ん中を踏み抜く。蝶番ごと外れた扉は、部屋の中に倒れ込んだ。

 もくりと立つ埃と視界の悪い薄暗い空間。奥の穴の開いた窓から、いよいよ強まってきた夜風が吹き込んでくる。



 ――そんな部屋の真ん中に、小さな人影が倒れ込んでいた。



「……しっかりしろ」


 駆け寄って、うつ伏せに倒れた小さな身体を抱きおこす。熱を持ったそれは、くたりと力なくイツキの腕の中に収まった。

 乾いた唇の隙間から、ヒュウヒュウと荒い息の音がする。


「おい、」


 ぴくりとも動かない天音の身体を揺する。顔にかかっていた髪が、ふらふらと揺れて落ちた。

 すると、


「ぅう……」


 ふと、小さな呻き声をあげて、天音が薄く目を開いた。蒼い目は、熱に蕩けて虚ろにイツキを見上げる。


「い、つき、さん……?」


「!……気づいたか?」


 切れ切れの掠れ声がイツキの名を呼ぶ。イツキは天音の顔を覗き込むと、紅い目でじっと彼女を見つめた。


「あ、の……」


 苦しそうな息の隙間から、天音は何かを言おうとする。

 しかし、次の言葉を口にする前に――



「イツキ!何があった……」


 不意に後ろから二人分の足音と声がする。イツキが振り返るよりも前に、その声は息を呑む音に変わった。


「どうしたんですのっ!?」


 アザレアが悲鳴を上げて駆け寄ってくる。気がつくと、天音はまたぐったりと目を閉じてしまっていた。


「ルクスが知らせに飛んできたんだ。――しくじった。索敵(エネミーサーチ)だと、対象の生命反応は見えても状態までは把握できないから……」


「っ――。とにかく、“セレイネ”を呼んでくる」


 そう言って踵を返すと、アキラは部屋を飛び出していった。残されたアザレアは、イツキの正面に回り込んで膝をつく。


「酷い熱。――工房(ここ)では看病できませんわ」


 天音の額にそっと手をおいて、アザレアは表情を曇らせる。割れた窓と外れたドアと。部屋を見回してアザレアはため息をついた。


「どこか、他に空いている部屋はないのか?」


「――貴方がここに来たときに、“兵器”の宿舎の部屋は埋まってしまいましたし。他の空き部屋は、ベッドはおろか机も椅子もありませんもの」


 眉を寄せるアザレア。イツキはわずかに考え込むように視線を下げたが、すぐに顔をあげた。


「じゃあ、とりあえず俺の部屋に運ぶ。――どうせろくに使ってないんだ」


 そう言って、イツキは天音の身体を抱き上げて立ち上がった。アザレアも立ち上がると、イツキはデスクの上に留まっていたルクスを見る。


「アキラに、俺の部屋に移ったって伝えてこい。今すぐに」


『ワカッタ!』


 ルクスの後ろ姿を見送って、イツキとアザレアも部屋を出て駆け出した。

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