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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
124/476

124,

 起き出してきた“兵器”たちで騒がしい廊下を、ローリエも含めた四人は逆方向に歩いていく。

 最後の角を曲がると、廊下はにわかに人気がなくなり、窓がなくなったせいで薄暗くなった。


『リン!』


 ドアの横のベルを鳴らす。普段なら返事があるはずだが、何も返ってこない。アキラは、直接ドアをノックした。


「先生?」


 それでもやはり返事はない。アキラはイツキを振り返る。イツキは軽く瞬きをした。


「――いる」


「静かですわね」


 アザレアが首を傾げる。


「どうしよう……大丈夫かな」


 オロオロと不安そうに眉を下げたローリエに、アキラは目を向けた。


「確かに心配だけど――こういうことって前にも無かったっけ?」


 アキラの言葉に、アザレアは考え込むように宙を睨む。


「いつだったか忘れましたけど――二日くらいお部屋にこもって出てこなかったことなんて、一度や二度じゃないはず……」


「前科者だったか」


 イツキの呆れ声に、アキラは苦笑する。


「先生、集中すると本気で周りが見えなくなっちゃうもんな〜」


「二日三日閉じこもってても、大抵出てきた時は普通に元気そうにしてますし……ここにいるってわかってるなら、そっとしておいて差し上げたほうがいいかもですわね」


 アザレアとアキラは顔を見合わせる。ローリエはイツキを見上げた。


「……」


「生体反応はある。――生きてるなら、別に大丈夫だろ」


 イツキの言葉に、ローリエはしばらく開かない扉を見つめていたが、やがてうなずいた。


「わかった……」


 どこか不安げなローリエに、三人は天音が出てきたら伝えることを約束して、彼女を《ひととき亭》に送り届けた。


 早足で朝礼が開かれるロビーへと向かいながら、イツキが呟く。


「ああは言ったが、本当に放っておいて大丈夫なのか?」


「……下手に邪魔してしまう方が駄目ですわ」


 アザレアの答えに、アキラもうなずく。


「わざわざ鍵までかけて作業してるってことは、相当になにか重要なことをしてるんだろうし……邪魔すると多分すごく不機嫌になるし」


 そのうち出てくるだろ。とアキラは笑う。


 ――しかし、

 それから三日経っても、天音は部屋から出てくることは無かった。



<><><>



 カーテンが引かれた窓。いくつかの機械ランプは、燃料不足でとうの昔に灯りを失っている。

 そんな空気の澱んだ薄暗い工房の中で、天音だけが絶やすこと無く手を動かし続けていた。


「……」


 ただ無言で、一心にデスクに向かう。その様子を、部屋の隅の箪笥の上からルクスがじっと見つめている。

 この三日間、まともに寝食も取らずに天音は作業し続けていた。ルクスはそんな彼女を案じて、何回も止めたのだが――結局、天音が聞く耳を持つことは無かった。


『……』


 じっとうずくまって、ルクスはただ天音を見つめる。その横に置かれた埃を被った置き時計の秒針の音だけが、時間が動いていることを教えてくれる。


 ――もう、ちょっと


 天音は心のなかで呟く。

 眠気と疲労感で力が抜ける右手。ピンセットを握り直して、ぐっと目を見開いた。

 休まないといけないことも、誰かに迷惑と心配をかけていることも、天音は十分理解していた。

 その上で、作業をやめることができなかった。


 ――もうちょっとで、あの人が無理をしなくてよくなる


 “精霊の加護(プロテクション)”を制御する苦しさを知っているから。人を傷つける悲しさを知っているから。

 ――ひとりぼっちの怖さを知っているから。

 ただ、たったひとりを守りたくて、天音は手を動かし続けた。


 ――――


「……で、きた」


 ぼそりと呟いて、天音は立ち上がった。ほっとしたように微笑む。


「よかった……間に合った」


 出来上がったそれ(・・)を手に取ると、天音は一歩足を踏み出す。しかし――


「っ、え?」


 踏み出した右足がガクッと沈み――天音は床に倒れ込んだ。

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